今では市内で指折りの学校として有名なレホンフォン高校

　この映画の舞台となったのは、華人街として知られるチョロン(現ホーチミン市5区)。その一角にある小さな家で、15歳のフランス人の少女と中国人青年は逢瀬を重ねた。その家は、小さな店がひしめき、終日活気で溢れる市場の中にあった。両側にコロニアル風の古い建物が建ち並ぶこの市場の半分を貸しきってロケが行われた、と家主は言う。

　この細い路地には絶えず人が行き交い、人いきれやバイクの音が蒸し暑い空気を一層濃く染めている。この雑踏と喧騒の中、白い家の窓の奥で、映画の二人は愛の交歓を繰り広げる。幼さの中にもぞっとするような色気を秘めた少女と、束縛から逃れ自由を求める青年の、刹那的な官能の光景がそこにあったのだ。

　少女が通う学校の撮影には、レホンフォン(Le Hong Phong)高校が選ばれた。今では共学となったこの学校は青々とした木々に囲まれ、見た目にもしっとりと清らかな雰囲気を漂わせている。レタントン通りとトンドゥックタン通りに建つ、学生寮として使われた校舎では、学生達の姿がちらつき、ふと少女の姿を見かけた気になってしまう。

　映画の世界を思い起こしつつ、ひとつひとつの場所を訪れてみればみるほど、ストーリーがまるで自分の身に起きた出来事のように思えてくる。そんな甘美な錯覚をゆっくりと味っているうちに、想像の世界に身を浸すことの快感が波のように押し寄せてきて、どうしようもなくせつない気持ちになってしまう。二人の関係が終わった時、本当の愛を知ってそっと涙を流した少女のように。