＜活動寫眞のある風景＞
残酷な愛、無垢なる死
消えゆく運命のシクロ

　庶民の交通手段として広く利用されてきた、人力三輪車シクロ(Xich Lo)。現在のタイプのシクロがサイゴンに現れたのは第2次世界大戦前のことだ。最近では交通事故や渋滞の原因になるとして、都市部では通行禁止などの厳しい規制を受けている。シクロの運転手は、その生い立ちは様々なものの、社会の最も底辺に位置する労働者であり、苦しく弱い立場にある。映画では、そんなシクロの運転手を中心に物語が展開されていく。

　主人公「シクロ」を演じたレ・ヴァン・ロック(Le Van Loc)さんはダナン出身の長距離トラック運転手。偶然監督と出合ったことから、この映画に出演することとなった。

「ホーチミン市に長く滞在するのはそのときが初めてだった。チョロンでヘリコプターが落ちるシーンがあったでしょ。あの場所にセットを組んで、そこで多くの時間を過ごしたんだ。トラックの仕事で訪れた街はすべて故郷のように感じられるものだけど、3ヶ月間住んだホーチミン市には特に愛着が湧いてくる。

　撮影に参加して思うのは、シクロはベトナムの文化として残っていって欲しいけど、社会や政府の意向でなくなる方向にすすんでいるのは、ある意味仕方がないとも思う。実際、バイクの方が楽だしね。以前あった、サイゴン川沿いのムーイ橋市場(Cho Cau Muoi)周辺はシクロの溜まり場だった。あの場所は『自分にこの役は無理だ』と泣きながら歩いた思い出があるんだ。僕は仕事中に他のトラック運転手とケンカした時も、父親が亡くなった時でさえも泣かなかったくらいなのにね。

　でも、今そこには新しい橋が造られて、当時の面影はない。シクロがなくなっていくのは、やっぱり仕方がないんだ。　次に映画に出るなら、またベトナム人労働者の1人としての役をやってみたい。僕はあくまで運転手という労働者だからね。」

目次 | Three Season季節の中で1 | Three Season季節の中で 2
女優/Nguyen Ngoc Hiep | Cyclo シクロ
俳優/Le Van Loc | L'amant 愛人/ラマン | VN映画紹介 | 西貢ロケ地マップ

スケッチトラベルで行く
シネマ・イン ホーチミン市散策ツアー

（2005年8月号 | 2005年8月5日 金曜日 10:03 JST更新）