バッチャン村
炭香る黒壁。家に伝わる窯は、
今日も炎に揺れる。

	↑バッチャン焼は、ろくろを回すのではなく、液体状の粘土を型に流し込み成型する。乾燥後、絵付けを施し、窯の中へ。火を入れるのは最初の6時間ほどだけ。あとは窯の中に入れた泥炭が、中の温度を保ってくれる。冷却時には、急激な温度低下により表面のガラス質にひび割れ（貫入）が生じる。「ピシピシピシ…」とかすかに響くその音は、とても幻想的だとか

　表面に幾筋もの貫入（かんにゅう）が入り、赤や青で彩色されたベトナムを代表する陶器「バッチャン焼」。今やベトナムお土産の定番と言うべきこの陶器は、ハノイ市内から車で約40分、ホン河沿いの土手を進んだ、南東約12キロのバッチャン村で作られている。バッチャン焼はかつて安南焼と呼ばれ、日本の茶人達にも好んで使われた。しかし今では、昔ながらの窯に陶器を積み上げ、泥炭を燃料に焼く方法で作る人は、村全体のたった30％程にすぎないという。

　Nguyen Van Doanh（グエン・ヴァン・ゾアイン）さんは、そんな中、今でも伝統的な手法でバッチャン焼を作っている。彼の工房では、形の成型から絵付け、窯入れまで、全ての工程を家族5人でこなしている。一番大変という作業は窯入れ。幅約90センチの小さな窯に、高さ約6メートルにまで、染付けされた陶器を積み上げていくのだ。「古い窯で作業をするのは、もちろん辛いよ。時間もかかるし、焼く時には泥炭の煤を吸って体にも良くない。だけど、効率だけじゃない。手間のかかる作業も結構楽しいんだよ」と、根っからの陶器好きなのか、煤で黒くなった顔を拭きながら話してくれた。

　窯の中は約1200度にまであがり、窯の外でも約100度。近くにいるだけで、汗が滝のように流れる暑さ。しかも現代のガス窯を使えば1日で焼きあがるのに対し、この窯では3日かかる。だが、最新型の窯で出来たものは、より美しく品質も一定だが、昔ながらの窯で焼き上げた陶器には、素朴な味があるという。そんな手間も暇もたっぷりとかけて生み出されるバッチャン焼。村内には数多く陶器店が並んでいるので、ぜひゆっくり時間をかけて、自分好みの一品を探してみよう。

バッチャンで絵付けを体験したい！
〜伝統工芸村を訪ねて〜

　MINH HAI CERAMIC（ミン・ハイ・セラミック）では、自分だけのオリジナルバッチャン焼も作れるぞ。茶碗からお皿、マグカップまで、自分の好きなものに、オリジナルの絵を描いていく。特に予約は必要ないが、焼きあがるまでに最低3日。ハノイに長期滞在しない場合は、日本へ送ることもできる。

店名 MINH HAI CERAMIC
バッチャン村に入ってすぐの大きな5階建ての建物
住所 Giang Cao-Bat Trang, Gia Lam Dist., Hanoi
電話 (04) 8741995
営業 8:00〜17:30
料金 小物入れ1.5US$、マグカップ3US$、茶碗2.5US$、大皿5US$など。絵付け体験だけならなんと無料！　作品を持ち帰る（購入する）時のみ支払い。※送料は別途
ウェブ http://www.minhhaiceramic.com/

バッチャン焼の生みの親は誰？
〜伝統工芸村を訪ねて〜

　バッチャンの陶器作りの基礎は、かつて村の主産業とされたレンガ作りからきている。実はフエやハノイの王宮で使われていたレンガも、ここで生産されたものなのだ。そして、そのレンガ作りを最初に始めたのがNguyen Ninh Trang（グエン・ニン・チャン）さん。その末裔は、今もバッチャン村で陶器を作り続けている。彼らは数年前まで、村で行われる祭りの時は必ず行事の中心となり、寺に入るのも一番最初。座る位置も中央と、まさに村の顔ともいえる家族だったのだ。

バッチャン焼きの絵柄。
〜伝統工芸村を訪ねて〜

　筆を使って手作業で模様が付けられるバッチャン焼は、どれ一つとして全く同じものがなく、その模様には人々の願いが込められているとか。龍・鳳凰など、中国から伝わった柄もあるけれど、菊やハスなど身近な自然を描いたデザインが主流。特に「松、菊、竹、桃」は、昔からベトナムの心を代表する植物で人気。

　菊　 豊作になりますように
　とんぼ　幸運に恵まれますように
　井形　幸せになれますように

　実は、こんな意味なんです。

バッチャン古地区は、まるで古代の迷宮？
〜伝統工芸村を訪ねて〜

　バッチャン村の入り口から約1キロほど入ったところにある市場の更に奥。ひしめく家々の間を迷路のように入り組んだ細い路地がはしる、そこがバッチャン古地区。人々の素朴な生活も見所だが、ここで注目すべきは家の壁。縦横30センチほどもある大きな四角いレンガが積まれているが、実はそれが昔バッチャン村で作られていた伝統のレンガ。しかも、なぜかそのレンガにはコケが付着しにくいという…。

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（2004年12月2日 11:11更新）