＜ベトナム芸能界珍道中＞
愉快・痛快・ウキウキ★SAKAI
第11話：売れないCD、路上の喧嘩、そして運命の出会い

　テレビ番組「マネーの虎」で、ノーマネーに終わった『かわいい君へ』のユニットリメイクバージョンや、WADAのベトナム月琴、師匠ゴック・ソンの名曲カバーなど、バラエティにとんだアルバムに仕上がった。

　しかし、ただ「CD出します」といったところで、俺達はまだまだ無名の歌手。ベトナムのスター、ゴック・ソンにしても、日本でその知名度は低い。

　そこで俺達は、CDを売るために全国ツアーを企画。全国のイベント関係者に営業をかけ、東京、埼玉、神奈川、名古屋、大阪、京都、神戸の7箇所でのイベント出演を取り付けた。

　お金に余裕がない俺達は、「青春18切符」や格安バスを乗り継ぎながら各地を転々。名古屋では親戚の家に御世話になりながら、ついでにCDを売りつけ、大阪では1500円の安宿に泊まりながら、ワンカップ片手に呑んだくれていたオジサンにCDを買ってもらった。

　さらに京都では祇園に出向き、「おいでやす〜」と声をかけてきた舞妓さんにもCDを勧めた。

　とにかく2人でひたすら売りさばこうとしたのだが、現実は厳しかった。

　売上げ枚数は1年間でたった350枚。「マネーの虎」出演後、手売り用に作ったCD1000枚が完売したというのに、今回は全然売れない…。

　俺は自信をなくし、悩んでいた。俺ももう26歳、若くない。自他共に認めるナルシストの俺が、歌だけで売れることは、もう無理だと思うようになっていた。

　それでも俺は、俺にしか出来なくて誰にも負けないことを頭をひねって考え、自分の中で掘り下げることを繰り返しながら、毎日悩んで悩んで悩みまくった。

　そんなこんなで苦しみながら、新宿・歌舞伎町をふらついていたある夜のこと。1人の男性が路上でチンピラにボコボコにされ、血だらけになっている場面に出くわした。

　周りの誰もが、その光景を傍観しているだけ。俺はすぐさま止めに入り、

「もうやめろよ」

　とチンピラの肩に手をかけた瞬間、裏拳が俺の顔面に大ヒット。吹っ飛んだ俺は体勢を整える暇もなく、ボコボコに蹴られた。それでもなんとか立ち上がり、さらに殴り合いが続く。喧嘩が苦手な俺だが、こうなったら後へは引けない。何度も吹っ飛ばされながらも、チンピラにしがみつく。

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（2008年5月号 | 2008年5月19日 月曜日 10:33 JST更新）