「同志だと思っていたのに…。 日本人社員が本当に退職してしまいました」

　29屋さん、はじめまして。いつもこの連載を楽しみにしているのですが、先月号（2009年2月号）を読んで大変驚くと同時にガッカリしました。詳細が少し違うものの、明らかに弊社をつい先日退職した日本人若手社員のことと思われるからです。確かに今、仕事はきついし、給料も安い。それでも彼は納得の上でベトナムに来て、立ち上げたばかりの事業なので新人の彼に高い給料を払う余裕がないこともわかっていたはず。何よりも、これから皆でがんばって利益を上げていこうという時に辞めたのでは、今までの彼の苦労も無意味だと思うのです。匿名とはいえ、スケッチへ投稿の上で辞職したことで、お客様や関係者からは「そんなに商売ヤバイの？」と必要以上にご心配をいただいている状況。こうなったからには自分の人選ミスを嘆くしかないのですが、私にどうしろというのでしょうか？

PN：納得いかないベンチャー社長（29歳♂　起業から1年10ヶ月目)

「『絵に描いた餅』でガマンできる期間は、大将の男気＆才覚によって長くも短くもなります」

関ケ原の戦いで敗れた西軍の大将・石田三成の家臣で島左近という智勇に優れた武将がいます。いくつかの大名家を転々として浪人になった彼を召し抱えるために、石田三成が用意した俸禄（＝給料）は2万石。これは当時4万石しかもらっていなかった三成にとって、わが身を削った超破格の申し出であるといえます。

　もっとも近年の研究では、「島左近が臣下になった時点での三成の石高は19万石だった」という学説もあるようですが、いずれにしても古今に例を見ない好待遇であることには変わりありません。優秀な官僚ではあったものの戦争が苦手だった三成からしてみれば、自分に足りない部分を補って余りある島左近という男は、そこまでしても欲しかった人材でした。そして、その意気に感じた島左近はその生涯の最期まで忠義を貫いて鬼神のごとき活躍をしたと、歴史は伝えています。

　さて、今回の御社の場合。貴男が彼に対して求めていた役割が「即戦力」としてのものであれば、残念ながら人材を求める場所が間違っていますし、「ゼロから育てていくつもりだった」というのであれば、貴男の器量と辛抱が現時点で足りなかったと思います。 たとえばプロ野球チームの監督が新戦力を補充しようとする場合、てっとりばやく成績を上げようとするのであれば、既に他チームやメジャーなどで活躍している選手を高額で引き抜いたほうがうまくいく確率が高い。しかし、無名の学生や商店街草野球の4番打者をひっぱってくるのであれば、しっかりとした育成プログラムと環境を用意した上で、本人がプロで通用する実力を実につけるまでの間は周囲のプレッシャーから守り、導いていかなければならない。それが「異例の抜擢」をした者の責任であるからです。反対に、コスト面と話題性だけを考えて「安くこき使って、ダメなら捨てるつもりだった」というのであれば、その魂胆が本人に知られてしまったときに何を思われても自業自得。逆恨みはやめてください。

　それに、もし仮に彼が、常に貴男の期待を裏切り続けるような未熟なダメ社員だったとしても、最初にそれを見抜けなかった上に、そんな彼を雇い続けるしかなかった貴男も社長としては未熟。自分の事を棚に上げるのはそれぐらいにしておくようにお勧めする次第です。最初に「雇うか・雇わないか」、仕事ぶりを見た上で「育てるか・どう使うか・切り捨てるか」を決めたのは社長＝貴男です。今頃になって、貴男の希望どおりに彼が働いてくれなかったことを、すべて彼のせいにするのは、無責任というものではないですか。それなのに、「彼に期待した俺がバカだった」などと言うのは、ずいぶんとケツの穴の小さい話に聞こえてしまいます。

　結局のところ、貴男自身に金銭的・精神的な意味合いを含めてヤセがまんをする気がないなら、子分を持つのは時期尚早です。給料をどれほど払おうと、真心を尽くそうと、他人が貴男のことをどう思うかなど完全にコントロールできるものではありません。社員一同が、それぞれのポジションで苦労と利益を分け合いながら共闘できる環境を整えることこそ社長の仕事。今は涙をこらえ、人を恨むことなく、ガッツで歩み続けてください。

オフィスジパンング・今日の弁当
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（2009年3月号/2009年3月25日 水曜日 14:52 JST更新）