「義理と現実の板ばさみ ！ 野望のベンチャー社長の下から去るべきか否か迷い中…」

　29屋さん、聞いてください。僕は今、会社を辞めるべきかどうか真剣に悩んでいます。学生の頃から海外で働いてみたいと考えていた僕が、知り合いの紹介で今の勤め先の社長（28歳♂）に出会ったのが1年程前。「俺と一緒にチャンスに賭けてみないか？」と熱く夢を語る姿に感銘を受け、体当たりの覚悟でベトナムへ来ました。ところが、実際に働き始めると聞いていた話とは違い、事業が軌道に乗る気配が未だに見えてきません。闇雲に飛び込み営業に回らされたり、「何でもいいから書いてみろ」といわれて事業企画書を書いたりしても、何ひとつ形にならず、いらだつ毎日です。今、給料も本当に安くて生活が苦しく、このまま会社にいていいのか不安です。かといって、悪戦苦闘中の社長に恩返しのひとつもしないまま辞めるのも後ろめたい気がします。どうすればいいでしょうか？

PN：ぺペロンチーノ富岡（24歳♂　現地採用5ヶ月目)

「たまたま出会った2人が、偶然『信長と秀吉』である可能性は、限りなく『ゼロ』です」

　ひと口に「海外で働く」といったところで、イチロー選手から皿洗いまで、いろいろなパターンがあります。しかしベトナムのビジネス市場が外国からの投資を受け入れ始めた歴史はまだまだ浅く、ましてや小規模のベンチャー事業ができるようになったのは、ここ数年のこと。法律やインフラの不備など不便なことも多い反面、逆を言えば才覚次第でローカルチャンピオンの王座に就くことも可能で、日本で閉塞感を感じた野望満々の若い世代の社長さんたちがチャレンジしようとする気持ちは、わからないでもありません。特に、経済雑誌などでベトナム経済の躍進を報じる記事や、自分と同世代の若者が「国際ビジネスマン」として取り上げられているのをみれば尚更、「よっしゃ、俺も！」という気持ちになってしかるべきでしょう。

　しかし、成功者の足元には無数の敗者が埋まっているもの。ライト兄弟が飛行機を飛ばす前にも、何十人もの名も知れぬ「鳥人間」や「風船おじさん」が墜落し、大怪我をしました。しかし彼らは「あはは、アホだなあ」のひと言で片付けられてしまい、一般市民だけでなく、同様の夢を持つはずの「俺だけは、絶対に、負けるはずがない!!」と鼻息荒い後発組のチャレンジャーたちからすら、真剣に顧みられることはありません。

　貴男のお勤め先の社長さんが、どのようなビジネスを展開していて、それが果たして成功するのかどうかは、神様とクライアントのみぞ知ることでしょう。しかし少なくとも現在、「日本人スタッフ＝貴男」の目から見て、お世辞にも「商売繁盛」と言えない状況とのこと。決してのんびり構えていられない段階なのは確かと思われます。

　この場合、具体的に事態を改善する方策は、「収入を増やす」か、「支出を減らす」か。シンプルにこの2つだけなのですが、船が進む方向が見えないまま全速前進するのは玉砕への片道切符でしかありません。たとえ貴男にどれほど優秀な能力があろうとも、また、社長さん個人にどれほどすばらしいビジネスプランがあろうとも、会社組織としての意思決定と実行力がなくては、いったい何をがんばればいいというのでしょうか。また、苦境における叱咤激励や愛のムチというものは、トップの情熱が「希望への道」を照らし出してこそ部下の心に響くものであり、貴男自身がそれを感じていないというのであれば「恩返し」とやらが、できようはずもありません。

　となると、次策のコストカットですが、安い給料がさらに安くなったとしても、辛抱して働き続けられるか否か。長く続いた物質的な窮乏は人間の心を惨めに傷つけることが多く、貴男の心がその間、優しさや明るさといった若者特有の長所を失わずにいられるかどうか、非常に疑問です。結局のところ、貴男の今の苦しみが、貴男自身の未熟から来るものにせよ、社長さんとの不協和音から生じたものにせよ、貴男が何かを現状の「敵」と定め、それを越える覚悟を決めない限りは、どこへ行くこともできません。また、その上でどのような結論を出したとしても、自分で決めたことを後悔したり、関わった人の悪口を言って回ったりするのは、貴男の値打ちを下げるだけ。ぐっと涙と言い訳を呑みこみ、ガッツの末に微笑む日が貴男にくるよう、心から願います。

オフィスジパンング・今日の弁当
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（2009年2月号/2009年3月10日 火曜日 0:34 JST更新）