野鳥の聖域　メコンデルタ
人里離れたメコンの森の奥深く
野鳥たちの王国があった

　水没した樹木が覆い茂る湿地の中を、水草をかき分けながら、小さなボートはすべるように進む。薄暗く長い緑のトンネルを抜けると、一気に視界が開けた。目の前に数百メートルに渡って広がる湖の上には、数え切れないくらいの鳥達が乱舞している。まさにそこは野鳥たちの楽園だった。

　見渡す限り人工物は何もなく、我々の船が水を切る音と、鳥の鳴き声以外は何も聞こえない。水草の上を飛び交い、森のこずえに集う鳥達…。

　船が近づくと、水面で羽を休めていた鳥の一群が、バシャバシャと水しぶきを上げながら、次々に飛び立っていく。一面の緑を舞台に、鳥達が繰り広げるそんな情景は、神秘的とも幻想的とも感じられ、頭の中に「桃源郷」という文字が浮かんだ。

　ここはベトナム南部、メコンデルタの中でもカンボジア国境に近いところにあるチャースー・バードサンクチュアリ。種類にして15以上、何万羽もの野鳥達が静かに暮らしている。

	マングローブ林をボートが進むにつれ、両側の木々の上で休んでいた鳥達が驚いて飛び立っていく

　現在ベトナムには、1000種を超える鳥がいると言われている。しかしながら、鳥達をとりまく環境は恵まれたものではない。大型の鳥はみんなstork（コウノトリ）と総称され、実は本物のコウノトリは、滅多に観測されないという事実すら、一般には知られていない。鳥の保護の重要性、環境問題に対する社会的関心そのものが、芽生え始めたばかりなのだ。

　そんな中、チャースーは、もっとも貴重なサンクチュアリの1つに数えられている。ここでの探鳥ツアーは、水路の十字路に立てられた木製の観測台から眺める、雄大な日没で締めくくられる。夕日で真っ赤に染められた空を、様々な形の編隊をとった鳥の群れのシルエットが次々に横切り、それぞれの営巣地に帰っていく。大空を舞台にした、鳥達のショーは、太陽が沈みきり、夜のしじまが森を支配するまで、延々と続くのだ。

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　 ツアーでも行ける野鳥の楽園
■鳥を見た後のお楽しみ
　 野鳥のいる町・ホットインフォ

（2003年12月号）