ベトナムの日本人/小田ならさん/京都大学特任研究員

西洋医学が発展してもなお、ベトナムに根付く伝統医学。 時代とともに変化する様を楽しく追いかけていきたい

[caption id="attachment_82499" align="alignnone" width="570"]Japanese_201703_NEW 「苦しい状況に立たされたとき、西洋医学でも伝統医学でも頼れるものがあるのならすがりたいと思うのが『人間の性』だと思うんです」 もの腰柔らかながら、確信を突いた真っ直ぐな言葉が印象的な小田ならさん。大学院入学を機にベトナム伝統医学の研究を始め、現在は京都大学アジア・アフリカ地域研究科で研究員として活躍している。 この道へ進んだきっかけは、日本文化史専攻だった大学時代。戦国時代に持ち込まれた「南蛮医学」とキリスト教が、各地に根付く伝統医学とどのように融合し人々に浸透したかに興味をもった。また、ベトナムには“南薬”と“北薬”が存在し、「伝統医学が複数の要素で成り立っていることに面白さを感じて」研究対象をベトナムに選んだ。 北薬とは、ベトナムの「北」に位置する中国由来の薬のこと。対して南薬は、ベトナム産の生薬を使用する薬を指し、“庭の薬”とも呼ばれる。 これらを切り口として人々が伝統医学をどのように利用してきたのかを調査するため、2010年からハノイに留学。語学を勉強しながら、伝統医学病院や診療所でのインタビュー、公文書館での資料集めに奔走した。 「病院の守衛さんに『医者に会わせてほしい』って、拙いベトナム語と身振り手振りで。今思えば、必死の体当たりですね」 と笑いながら当時を振り返る。 日本では伝統医学は公的な医療制度内での診療は行われていないが、ベトナムは病院に「伝統医学科」の設置が義務付けられ、組織的な枠組みの構築に注力している。 「南北統一以前から国を挙げて伝統医学と西洋医学の良さを融合し、『統合医学』として発展させようという動きが活発です」 西洋医学の発達に伴い廃れるのではなく、補完的に、あるいは最後の手段として伝統医学を利用する人は今なお多い。 「西洋医学へのアクセスが難しい地方でも容易に手が届く南薬をはじめ、伝統医学の土壌が広いことがベトナムの良さですね」 留学中、不妊に悩む夫婦や末期がん患者の家族に同行して診療所での聞き取りを行う中で、新たな気付きも生まれた。 「結果がどうであれ『やれることは全てやった』と患者自身が思えれば、納得の仕方が全然違うということを目の当たりにしました」 ベトナムでは若い世代にも、体を温める・冷やす食べ物といった“おばあちゃんの知恵袋”的な知識が浸透しているが、これは世代間の同居が多いことが要因のひとつ。しかし最近は、「単身世帯や核家族が増え、親から子へと受け継がれる知識も少なくなっています」。また、最近ではスーパーの利用者が増えているが、「人が集まり、情報交換の場として大切な役割を担ってきたのが市場。世間話の場がなくなってしまうことは、伝統医学の伝承にも大きく影響を与えると思います」 現在は年に1度は来越して調査を続けている。ベトナムの発展や医療分野の海外との交流の進展に伴い、伝統医学のあり方にどのような展開が見られるのか。「自分の目で見てみたい」という“わくわく”を持ち続けながら、自身のフィールドを着実に進んでいく。
小田なら おだなら 兵庫県出身。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程研究指導認定退学。研究テーマは近現代ベトナムにおける医療と社会の歴史。2010年から2年間、ハノイ人文社会科学大学ベトナム学発展科学院に留学
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