伊藤忍のベトナムめし大全/第80回 生魚のあえもの/Gỏi Cá

KIMG1206フーコック島のゴイカー。削ったココナッツの食感と油分が加わって深い味わいに

今回ご紹介する「ゴイカー/Goi Ca」(Goi=あえる、Ca=魚)を初めて食べたのは、昔住んでいたホーチミン市でした。淡水魚のレッドティラピア(Ca Dieu Hong)をレモン汁と塩で締め、しょうがの千切りや玉ネギの甘酢漬けとあえたものです。淡水魚とはいえ、生魚好きの日本人の私。この料理にすぐさまはまってしまいました。生の魚を酢で締めて食べるのは日本と同じですが、違うのは、たくさんの生野菜や香草と一緒にライスペーパーで巻いて食べるという点です。また、タレも魚醤(ヌックマム/Nuoc Mam)の甘酸っぱいものや、ピーナッツベースのものがあったりして、日本とはかなり異なる生魚の食べ方にとても驚いたのを覚えています。 かつて現在のフエ(Hue)の南にチャンパ(Cham Pa)王国を築いていたチャム(Cham)族の料理が、ゴイカーのルーツだと聞いたことがあります。彼らが食べていた料理が、その後ベトナム人に伝わり、各地域でとれる魚や特産品と結びつきながら、スタイルを変えていったようです。各地方で食べ歩いてみると、「ゴイカー」という同じ名前でも、その土地その土地で全く違うスタイルなのがおもしろいのです。 さっそく、各地方のゴイカーの一部をご紹介します。まず、ムイネー(Mui Ne)では、「ゴイカースォッ/Goi Ca Suot」と呼ばれるトウゴロウイワシ科の魚をレモン汁と塩で締めて、ピーナッツと唐辛子をすりつぶしたタレであえて食べるものでした。ムイネーをはじめとする中南部~中部にかけては、焼いたごま入りのライスペーパーが添えられており、それを砕いて具材と一緒にライスペーパーで巻いて食べたりもします。 また、ニャチャン(Nha Trang)とクイニョン(Quy Nhon)で食べたゴイカーは、ニシン科の小魚ホワイトサーディンを使った「ゴイカーマイ/Goi Ca Mai」でした。クイニョンでは、炒った米粉やレモングラスなどの香味野菜がまぶされていて、タレはピーナッツダレと香味醤油ダレの2種類を好みで混ぜ合わせて使います。 最後に、フーコック(Phu Quoc)島の「ゴイカーチッ/Goi Ca Trich」は、酢で締めたイワシに、砕いたピーナッツや削ったココナッツをトッピングし、ライスペーパーで巻いてピーナッツダレにつけて食べます。 他にも様々な地域のゴイカーを食べましたが、今回はこれぐらいで。ぜひお気に入りのゴイカーを見つけて下さいね。

KIMG1144クイニョンのゴイカー。炒り米粉の香ばしさと香味野菜の香りが魚の生臭さを消してくれる

伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2004年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。 ウェブサイト:www.vietnamfoodnet.com
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