伊藤忍のベトナムめし大全
第67回 米蒸し焼き
Bánh Căn
カテゴリ:伊藤忍のベトナムめし大全
更新:2014/08/08 – 10:00
おいしくてヘルシーと、日本でも人気のベトナム料理。その魅惑の世界へベトナム料理研究家・伊藤忍がご案内します。
外はこんがり、中はふっくらとしたバインカン。米生地を焼く際に、鶏やアヒルの溶き卵や、うずらの卵を入れたりもする
ベトナム料理はよく北部、中部、南部の三部地方に分けて語られます。伝統的といえばやはり四季のある北部料理ですし、年中温暖な気候が育む南国食材を使った料理や、クメール人、華僑などの食の影響も強く受けている南部料理。この2地方の違いだけでもかなり大きいので、北部と南部の料理だけを知っても面白いのですが、ハノイやホーチミン市では出会うことがない中部地方ならではの料理があります。
中部地方と言えば、フエの王宮料理の影響を受けたものもありますが、マレー系、インドネシア系の民族であるチャム族の影響を受けた料理というのも存在するのです。フエより南の海岸エリアには2~17世紀までチャム族の国、チャンパ王国が栄えていました。以降、そのエリアがベトナムの領土となってからも中部には10万人以上のチャム族が住んでいます(一部南部にもいるので合計ではそれ以上ですが)。今回はそんなチャム族の影響を受けた料理のひとつ「バインカン/Banh Can(Banh=生地ものの総称、Can=間)」をご紹介します。
バインカンの発祥はファンラン(Phan Rang)のあるニントゥアン(Ninh Thuan)省で、チャム族の料理をベトナム人が学び、自分達の好みに進化させていきました。主にニャチャン、ファンラン、ファンティエット周辺で食べられていて、最近ではダナンやダラットなどの町でも店が目立ちます。
バインカンは浸水させた米と冷やごはん(または干したごはん)を挽いて水と混ぜた生地を、陶器でできた専用の窯で蒸し焼きにし、それをタレに浸して食べる料理です。この専用の焼き窯は、チャム族が住むファンランの陶器村、バウチュック(Bau Truc)でチャムの人々によって作られています。
ベトナム人は、バインカンを浸けて食べるタレを色々とアレンジしていきましたが、このタレが非常に面白いのです。タレは主に3種類、魚醤ヌックマムベースのタレ、ヌックマムを取った後の発酵イワシをすりつぶし、生姜やパイナップルを加えたマムネム(Mam Nem)、ピーナッツをすりつぶしてヌックマムや他の調味料と合わせたマムダウフォン(Mam Dau Phong)。さらには、ヌックマムベースのタレに、地域によって皮なしシュウマイ(Xiu Mai)や、鰯や鯵など海の魚の煮付カーコー(Ca Kho)を入れたりもします。
ちなみにベトナム中部地方の料理は唐辛子をたくさん使って辛い事で有名ですが、これはチャムの人々の食文化の影響だとか。
バインカンの窯は、丸く浅い陶器が、同じく陶器でできた炭火コンロの上に並び、それぞれに陶器の蓋が付いている
伊藤忍 いとう しのぶ
ベトナム料理研究家。2004年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。
ウエブサイト:www.vietnamfoodnet.com
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