伊藤忍のベトナムめし大全
第56回 蒸しフランスパン
Bánh Mì Hấp
カテゴリ:伊藤忍のベトナムめし大全
更新:2013/09/22 – 10:00
おいしくてヘルシーと、日本でも人気のベトナム料理。その魅惑の世界へベトナム料理研究家・伊藤忍がご案内します。
現在ではメインの具材は豚ひき肉、豚や牛に薄切り肉を炒めたものをのせることも。トッピングには大根とにんじんのなます、揚げねぎ、ねぎ油など様々
かつて、フランスに統治された歴史を持つベトナムの食文化は、当時の影響を受けてフランスパンを食べ、コーヒーを飲む習慣が根付いたのはよくご存じのことでしょう。
以前、本コラムでフランスの影響によるベトナム料理をいくつかご紹介してきましたが、今回は少し変わった経緯で食べられる様になった、フランスパンによるベトナム南部の料理にスポットを当ててみました。
「バインミーハップ/Banh Mi Hap」(Banh Mi=パン、Hap=蒸す)と呼ばれるこの料理は、名前の通りフランスパンの蒸したてを楽しめるものです。私がこの料理に出会ったのは、ホーチミン市に在住していた頃。当時借りていた部屋の大家が経営するミニホテルで、前日に食べきれなかったパンを使ってこの料理を作ってくれました。
食べやすく切ったフランスパンを1度水で濡らしてから蒸し、刻んだにんにくや玉ねぎなどと一緒に炒め、味付けした豚ひき肉をのせて、砕いたピーナッツを散らせば出来上がり。これだけだと味の想像がつくのですが、驚いたことにこれに山盛りの生野菜とハーブ、そしてヌックマムベースの甘酸っぱいタレが添えてありました。「ん?」と食べ方が分からずにいると、一緒にテーブルを囲んでいたベトナム人達はレタスにハーブとこのパンをのせて巻き、タレに付けて食べだしました。
パンで野菜を挟むのではなく、野菜でパンを巻き、さらにはこれに魚醤ヌックマム(Nuoc Mam)を合わせる。これ以外にフランスパンを使用した料理はいくつかありますが、サンドウィッチや、残ったパンをちぎって作ったケーキなど、少しアレンジしていても、実際にフランスにもある様なものばかり。しかし、このパンのベトナム的な食べ方には、とても驚いたのを覚えています。食べてみると、このゆるいパンの食感が全ての具材と絶妙にマッチしていて、クセになります。
色々な人から話を聞いてみると、この料理はさらにもう一ケ国の影響があるようです。現在の南部が南ベトナムだった時代に、アメリカ人が学生達に毎日1本ずつフランスパンを支給。食べきれない分は家に持ち帰り、切って天日干しして乾かし、保存。このカチカチになったパンを食べる方法として、誕生した料理ともいわれています。
当時、肉類を大量に食べるのは困難なこと。少量の炒めた肉をこの温めたパンにのせて量を増やし、野菜と一緒に食べることでお腹が一杯になるようにカサ増したようです。
そんな歴史的背景から偶然生まれた料理ではありますが、今でもわざわざ作る人もいるほど、隠れファンが多い料理なのです。
現在ではパンはカリカリになるまでは干さないが、柔らかくなるまでしっかりと蒸す
伊藤忍 いとう しのぶ
ベトナム料理研究家。2000年より約 4年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に『ベトナム×ハノイ36通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。
http://www.vietnamfoodnet.com
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