No.033 旅の伴侶
Sugita Noriaki
陸路での旅が好きだ。とりわけバスや列車で広い大地を移動する、時間をかけて点と点を結ぶ旅は、まるでその土地土地に溶け込んだかのような気持ちにさせてくれる。
以前、南北統一鉄道を使ってホーチミン市からハノイまで行ったことがある。道中、それぞれの駅で降りては改めて乗り直す、まさしく移動型の旅といったところだ。窓の向こうに広がる田園を眺め、顔を洗い、歯を磨き、食事をしては、シートに身をかがめて眠る。ほんのりとシート下から漂ってくる、行商のおばさんが持ち込んだ大量のドリアンのにおいはご愛敬だ。
走り回る子どもたちをなだめる若夫婦、故郷へ帰省する学生など車内の顔ぶれは様々。だが目的や旅程は違っても、この瞬間を共有する者同士、長い道程では格好なんてつけていられない。
そんな人々にカメラを向け、彼らの旅の一端を少し拝借する。逃げ場がないからか、「どうぞ好きに撮ってくれ」といわんばかりに誰もが構えるそぶりも見せない。見ず知らずの同乗者は、狭い空間の中でいつしか旅の伴侶となっているのだ。
写真・文/杉田憲昭
フリーランスエディター。日本での出版社勤務の後、2003年にベトナムへ渡る。本誌編集部勤務を経て独立、日本やベトナムの雑誌・情報誌を中心に活躍中。
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