伊藤忍のベトナムめし大全/第55回 牛肉のロットリ―フ焼き/Bò Nướng Lá Lốt

2013-07-08 14.02「ボーヌンラーロット」は、女性の親指大ぐらいのサイズ

今回ご紹介する料理「ボーヌンラーロット/Bo Nuong La Lot」(Bo=牛、Nuong=焼く、La=葉、Lot=ティウロット(Tieu Lot)と呼ばれるコショウ科の植物)。昔旅行でベトナムに通っていた頃、夜になるとホーチミン市のトンドゥックタン(Ton Duc Thang)通りにこの料理の屋台がたくさん並んでいたのを覚えています。どの店も葉っぱに巻かれた筒状のものを網に挟んで炭火で焼いていました。 当時はベトナム語ができなかったので身振り手振りで意思を伝え、それを食べてみることに。焼き立てをそのまま口に運ぼうとしましたが、店の人が「それは許さぬ」と言う様に山盛りのハーブの皿を突き出して「いっしょに食べろ」とジェスチャー。周りを見回すと皆、丁寧にライスペーパーにハーブをのせた上にこれをのせ、さらに米麺も一緒に巻いていました。 真似して、タレに付けて食べてみると、口の中に何とも複雑な味が広がりました。最初は何か強烈な印象のタレの味、爽やかなハーブの味、そして香ばしい風味とともに、スパイシーな牛肉の味…。目まぐるしく押し寄せる、色々な味を楽しみながら食べたのを記憶しています。 こちらの料理には様々なレシピが存在。南部では牛肉を細かく叩いてそこに刻んだにんにくやレモングラス、エシャロットなどの香味野菜と魚醤のヌックマム(Nuoc Mam)やシーズニングソース(ベトナムの大豆醤油で南部ではヌックトゥーン(Nuoc Tuong)、中部や北部はシーザウ(Xi Dau)と呼ばれている)、砂糖などの調味料。人によってはターメリックやカレー粉などのスパイスを加えて味付けし、「ラーロット/La Lot」と呼ばれる葉で巻いて、炭火で網焼きにします。 前述の通りにたっぷりのハーブと米麺のブンといっしょにライスペーパーで包み、魚醤のヌックマムのタレか、発酵した魚から作るマムネムというタレを付けて食べるのです。 使われるラーロットはコショウの葉。コショウとは言っても、私達が料理に実を使う白や黒コショウではなく、同じコショウ科でも英名ではワイルドペッパー(Wild Pepper)、和名ではバイゴショウと呼ばれるもの。普通のコショウの様に粒ごとに実が取れるのではなく、小さな粒の果穂として一体化したものです。ベトナム、タイ、ラオス、カンボジアなどでは、主に葉を食べるために栽培。タイでは「バイチャプルー」と呼ばれ、生で料理を包んで食べるのですが、ベトナムでは焼いてから、さらに別の葉と一緒に食べるという複雑さ。これが何ともベトナムらしいです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA炭火の上では葉や牛肉、スパイスなどいろいろな香りが広がる

伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2000年より約 4年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に『ベトナム×ハノイ36通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。 http://www.vietnamfoodnet.com
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