伊藤忍のベトナムめし大全/第54回 とうもろこしおこわ/Xôi Bắp

IMG_6959ベトナム人はこのおこわを主に朝食に食べる。このようなボックスのほか、バナナの葉、ビニールを巻いた紙などに包み、テイクアウトする姿もよく見かける 今回の料理は、南部と北部で呼び名が異なるのですが、今回はあえて南部の名前でご紹介させて頂きます。この「ソイバップ/Xoi=おこわ、Bap=とうもろこし」は、名前の通りに、とうもろこしともち米を一緒に炊いたおこわ。ただ炊いただけではなく、ポロポロにつぶした皮なしの緑豆を、とうもろこしともち米の周りにまぶし、薄切りにして油でカリカリに揚げたエシャロットをのせて油気を加えて食べるものです。 おこわに入れるとうもろこしは、日本でよく食べる、黄色くて甘味のある甘味種(スイートコーン)とは違い、粘り気のある糯種(もちしゅ)のとうもろこしを使います。 この糯種のとうもろこしは、英語で「ワキシーコーン/Waxy Corn」とも呼ばれ、とうもろこしの粒の周りの皮がワックスでコーティングされた様に、ツルツル、ピカピカとしています。粒の中は「糯種」というぐらいですから、加熱すると粘り気があってモチモチの食感なのです。 このとうもろこしのモチモチに、さらにもち米の少し違う種類のモチモチ感が加わり、さらにはつぶした緑豆のボソッとした粉っぽさが口の中で微妙に混ざり合うのです。ここまでは南部も北部もほぼ変わりありません。 このおこわをどんな味で食べるかが南北で違ってきます。北部では「ソイルア/Xoi Lua」や「ソイゴー/Xoi Ngo」と呼ばれ、シンプルにおこわに加えた塩味で食べられています。一方、南部では、これにさらに砂糖も振りかけて、しょっぱ甘くして食べるのですが、砂糖といっても日本より粒の粗いグラニュー糖をかけるのです。 食べると当然「ジャリ、ジャリ」という食感が広がります。このジャリジャリ感が、南部のこのおこわの美味しさの一部だと私は思うのです。せっかくのモチモチとした柔らかな食感に、ジャリっとした固い粒を合わせるなんて…と初めてこれを食べた時は正直少し違和感があったのですが、食べ進んでみるとグラニュー糖がかかっていない部分が何か物足りなく感じて来たから不思議です。 甘さも勿論ですが、ジャリっとした食感がある方が、口の中でモチモチ感をより楽しく味わえる様に感じます。相反する食感を口にすることで、それぞれの食感がより際立つということなのでしょう。 ベトナム料理は、よくナッツ類やごまをかけるなど、食感を楽しむ料理でもあります。グラニュー糖は、湿度のある気候でも使いやすいために広く普及するようになったもので、偶然ではありますが、この食感の面白さも料理の一部として味わっているようです。 OLYMPUS DIGITAL CAMERA 糯種のとうもろこしは、育ちすぎると皮が固く食べにくくなるので、若めのうちのモチモチ感を味わう
伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2000年より約 4年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に『ベトナム×ハノイ36通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。 http://www.vietnamfoodnet.com
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