No.029 路上の軍師たち
Yamamura Raku
古代インドで生まれた盤上の戦いは、西洋ではチェスに、日本では将棋に、そしてここベトナムではコートゥン(Co Tuong)にその姿を変えた。睨み合う二つの陣の間には大河が流れ、「象」はそれを渡ることができない。「砲」は敵の上を飛び越えてその先の敵兵を撃ち、「馬」は前後左右に駆け回る。また日本のそれと違って、一度討ち取られた者は例え敵陣の兵としても二度と盤上に甦ることはできない。
そんな修羅場が繰り広げられているのは安穏とした街角で、戦いのタクトを振る軍師は日がな一日何をしているのかよくわからない男たちだ。
とある軍師は煙草をふかしながら語る。「若いもんは電話いじって時間をつぶしてるが、俺にはこっちの方がいい」。かく言うこのおじさん、スマートフォンをいじりながら対局している若者相手に連戦連敗。一局終わるたびに周りの野次馬から飛ぶ「Troi oi!」という冷やかし(励まし?)に少しバツの悪そうな表情を見せながら、何事もなかったかのように次の戦いの準備をはじめる。負けているのに負けていないこの態度。路上の軍師たちは、いかにもこの国の男らしいではないか。
写真・文/山村楽
雑誌を中心に活動する、ホーチミン在住のフリーエディター。
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