2013.04.04
• 男のローカルひとり飯 •男のローカルひとり飯/第18 回 無名の名店で 脱帽のブンボーを

名店や良店と言われるのは、いずれも人気店で、混雑しているのが通常だ。ところが、いつでも例外が存在する。ホーチミン市でも有数のハイレベルな「ブンボーフエ」を提供するこの店には、ビックリするくらいいつも客がいない。街外れにもかかわらず5万VND(約220 円)と強気な値段も客の入りに影響しているのかもしれない。
しかし、紛れもない名店の証、それは扱う食材に対する細かな配慮だ。バナナの花およびベトナムバジルは茹でず、前者は独特な渋み、後者は香りの高さを維持。対して、空芯菜の茎およびもやしは茹でることで適度な食感を作り出すことを狙っているのだ。
一口スープを飲めばその予感は確信に変わる。非常に柔らかで深い味わい。濃縮した動物性の旨味と、広がりのある発酵したエビの旨味。ラーメンに例えれば、まさにニューウェーブ系のダブルスープとも言うべきものだ。渋みのあるノコギリソウの千切りがあらかじめ加えられているのも興味深い。
このスープには無頓着にライムを絞り入れても構わない。フルーティーな甘みが加わり、一気に味わいが広がる。さらにベトナムバジルの華やかな青みが、スープの次元を一つ増加させる。
具材の豚肉ハムのチャー(Cha)は、フレッシュでニンニクががっつりと効いているし、厚切りのゼラチン質たっぷりの牛肉や、豚のげんこつ部分も大ぶりの肉が嬉しい。ブンも通常より弾力があり歯ごたえしっかり。
客が来ずとも迷うことなくこのクオリティーを維持し続ける同店に完全に脱帽したランチだった。
本日のひとり飯: トゥアンアン/ Thuan An 住所:39-41 Hoang Sa St., Dist. 1 電話:(08) 3910 0300 営業時間:7:00 ~ 22:00 「ブンボーフエ/ Bun Bo Hue」5万VND(約220 円)
井之原 四郎 孤高のフーディーを自称するフードライター。食べ物である限り、食べられない物がないのが自慢。美味い料理を食べているときは自分だけの世界に入り込んでしまい、時には涙を流すことも。酒にも目がない。