ヴィジュアル☆ベトナム/CHAIRS AND THE STREET/椅子と道

C08 ヴィジュアル☆ベトナムこの国では、ただ座って通りを見つめるために、住宅やら商店やらホテルやらの前に椅子が置かれているのがおもしろい。お気づきの通り、このベトナムの習慣にいそしむのは大抵が中年男性、とくにぽっこりとしたエビス腹の人だ。定番のドレスコードは、白のランニングにトランクス。日焼けした偉大なお腹にトランクス姿だと、なお良い。おじいちゃんたちなら、縞のパジャマということになるかもしれない。 ベトナムに何年か暮らしている人や、田舎に行ったことがある人なら、私が「シネマカフェ」と呼ぶ、全ての椅子が通りを向いているカフェをご存じだろう。プラスティック製であれ、折りたたみであれ、ここでは社交よりも見つめることが主要となる。いわば見世物となるのは、映画ではなく、道で繰り広げられる実際の生活風景だ。 はっきりと覚えているのは、海外からサイゴンに戻った時のことだ。まだこの街で仕事がなくて全くやることがなく、私は当時少し混乱していた。でもプラスティック製の椅子とバルコニー、時間と道はあったので、生活が形になるまで、これらの男性の真似をすることにした。ただじっと見つめることが、どれほど開放的で豊かな楽しみだったことか! もちろんこれらの素朴なカフェは、ベトナムが今ほど豊かでなく、娯楽も少なく、気晴らしになるものも少なかった時代を物語っている。でもベトナムのもっとモダンで排他的なカフェで通りを背にした椅子に座り、必須アイテムの携帯をいじり、ラップトップのブルーの光に顔をさらす私たちよりも、エビス腹の男たちの方がもっと優雅に見える。ふらりと現れる何かに注目しながら時間を過ごすという贅沢を満喫し、EメールやSMS から得られる情報もなし。生きた世界の細部ひとつひとつに、ただ心を開くという贅沢。 日本には「シネマカフェ」のようなものは存在しないし、ベトナムでも次第に姿を消していくことだろう。それらがまだあるうちに、この国にいる間に、時にはこの贅沢な席をベトナム流に楽しんでほしい。おっちゃん仕様の服装でいくかは、ご気分次第でどうぞ。
Sue Hajdu スー・ハイドゥー オーストラリア人アーティスト、写真家、文筆家としてベトナムと日本で活動。シドニー大学・日本学の学士号、同大学院視覚芸術の修士号をもつ。 www.suehajdu.com facebook: Sue.Hajdu.Projects
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