伊藤忍のベトナムめし大全/第42回 牛肉のお酢しゃぶしゃぶ/Bò Nhúng Giấm

牛肉のお酢しゃぶしゃぶ/Bò Nhúng Giấm 伊藤忍のベトナムめし大全私がこの料理を知ったのは、ベトナムに通い始めた初期の頃でした。旅先のホーチミン市で地元の人に連れて行ってもらった店で出てきたのがこの、「ボーニュンヤム/Bo Nhung Giam(Dam)」(Bo=牛、Nhung=濡らす、Giam=酢 ※Damと書くこともある)でした。 卓上コンロに置かれた鍋には、レモングラスと何か酸っぱい香りのする液体が入っています。そして皿に盛られた牛肉、生野菜とハーブ、ライスペーパー、タレが次々と並びました。「何だかとても大がかりそう…。どうやって食べるのかな」と思っていると、同行のベトナム人は牛肉を少しずつ鍋の汁の中に入れ、火を通し始めました。それからライスペーパーを1枚取り、その上にレタスとハーブ、スライスしたスターフルーツと青いバナナを1枚ずつのせていきます。そして最後に火を通した牛肉をのせ、くるりと巻いて、タレに付けて食べろとジェスチャーするのです。 口に運ぶと、不意にパンチされたかのような強烈な魚の匂いが口に広がりました。「牛肉料理なのになぜ魚?」と思っていると、だんだんと爽やかなハーブの香り、スターフルーツの酸味、バナナの強い渋み、そしてしっかりと濃い肉の味が次々に巡ってきて、だんだんと口の中で混じり合います。 ガッツリとお肉ばかりを食べていると、味に舌が馴染んでしまい、肉の味感が薄れてくる様に感じますが、この食べ方だと他の素材の味も入り、肉の味を拾おうと舌が敏感になるような感じがします。 そしてとにかくタレの味が強烈で、このタレが「Man Nem/マムネム」と呼ばれ、ベトナム南部でよく食べられている発酵調味料を使ったタレだと知ったのは、それからずいぶん後の事でした。 牛肉をゆでる汁は、ぶつ切りや刻んだ後に炒めたレモングラスとココナッツジュース、ベトナムのお酢、砂糖などから作ります。食べ方が実にベトナム料理らしく、牛肉と一緒にサッパリとしたレタスやハーブ、スターフルーツ、若いバナナを一緒に食べることにより、牛肉の味が口の中でより引き立てられると考えられているのです。 また、強い牛肉の匂いが口に入れた時に勝ちすぎないよう、マムネムのように強い香りのタレを合わせます。さらには、これらの様々な素材をライスペーパーがうまくつないでくれるのです。 ちなみに卓上で、自分でライスペーパーに料理をのせて食べることが、生春巻きよりもより一般的なライスペーパーの使い方・食べ方だと知ったのも、この料理を知った後のことでした。 (写真上:ベトナムの牛肉は脂があまりのっておらず殆どが赤味のため、牛肉独特の匂いがとても強い。このスープで火を通せば、匂いを押さえ、甘酸っぱい風味が付く)

マムネム

マムネムは、発酵した魚(イワシに塩を加えて発酵させ、上澄みの魚醤ヌックマムを取った後の魚)とすりつぶしたパイナップル、しょうが、にんにく、赤唐辛子、砂糖、レモン汁などを合わせて作るタレ
伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に新作『ベトナム×ハノイ36通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
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