ヴィジュアル☆ベトナム/SAIGON RENAISSANCE/サイゴンルネッサンス

SAIGON RENAISSANCE/サイゴンルネッサンス ヴィジュアル☆ベトナム雑然としたサイゴンで私が惹かれるのは、おんぼろアパート群と個性的な建物。だがこれらは非常に「ローカル」な場所で、きまぐれに立ち寄れるほどお気楽じゃない。でも、わざとそんな空間を作り上げているお洒落でレトロなカフェなら、心地よい音楽とコーヒーを楽しみながら、往時のサイゴンの雰囲気にどっぷりと浸れる。 お気に入りのカフェは、「シングズ/Things」と「ファーム/Farm」。どちらも数世代前のサイゴンの雰囲気を再現している。古いラジオや時計、ビニールソファ、ドンナイ省の陶器など、日用品で飾られたカフェのインテリアは、50、60、70年代へと瞬く間に連れていってくれる。 蓮や彫刻やたっぷりの金箔で飾られた北部の寺院風の「ベトナムルック」な飲食店やショップは、誰もがおなじみだろう。この前近代的なスタイルとは対照的に最近急速に増えているのは、都市、工業、日常生活のルネッサンス(復興)。そんなカフェでなら、前世紀半ばのベトナムの見た目と感覚をじっくりと味わえる。この時代とその雰囲気に包まれた品々を外国人が目にすることは、ほとんどなかったのだから。 「サイゴンルネッサンス」は、建築的にもおもしろい。いまにも崩れ落ちそうなアパートの回廊を抜け、黄土色とミントグリーンを幾世代にもわたって塗り重ねてきた石灰塗料に差す光の中を通って、ようやくカフェラテにありつける。ここでは、シンプルな素材と市民的な美意識が受け入れられている。南国カラーに塗られた木製のよろい窓や、花や幾何学模様のセメントタイルの床が、古物市場に送られることなく、大切に披露されているのだ。 この美的センスのパイオニアは、実は外国人。2001年にオープンした「ラフネソレ/La Fenetre Soleil」が最初だったはずだ。さらに面白いのは、現代のルネッサンスの巨匠たちは、センスやライフスタイル、フィーリングを重視するサイゴンの若者たちだということ。古きサイゴンの何かが失われていることを感じ取り、それを取り戻して大切にし、自分の生活に取り込もうとしたのではないかと、これらのカフェを見て思う。
Sue Hajdu スー・ハイドゥー オーストラリア人アーティスト、写真家、文筆家としてベトナムと日本で活動。シドニー大学・日本学の学士号、同大学院視覚芸術の修士号をもつ。 ウエブサイト:www.suehajdu.com facebook: Sue.Hajdu.Projects