伊藤忍のベトナムめし大全/第33回 苦瓜の肉詰め煮/Khổ Qua Nhồi Thịt Hầm

苦瓜の肉詰め煮/Khoå Qua Nhoài Thòt Haàm じっくりと煮込んだ苦瓜は柔らかく、スープに苦みが出てしまうので、苦瓜自体の苦みは薄くなる

日本で最近、夏の定番野菜になりつつある「苦瓜(=ゴーヤ)」は、ベトナムでも非常にポピュラーな野菜です。北では「ムオップダン/Muop Dang」(Muop=瓜、Dang=苦い)、南では「コークア/Kho Qua」(中国語の「苦瓜=クーグア」に由来している。Kho=漢字の「苦」、元は苦しいという意味ですが「苦い」という意味で使用、Qua=果実・実)と呼ばれます。 この苦瓜は主に肉や卵と炒めたり、スープの具にしたり、生であえものにしたりして食べることが多いのですが、今回ご紹介する「苦瓜の肉詰め煮」は、苦瓜の存在感が最も強い料理ではないかと思います。 ご存じの通り苦瓜の実の中にはワタと種があり、これらを取り除いて食べるのが一般的。この苦瓜料理は、ワタの部分を取った後の空間に、豚のひき肉で作った生地を詰め、じっくりと豚のスープで煮込んだ料理です。ベトナム全土で食べられていますが、今回は南部版についてお話ししましょう。 この料理は南部では「コークアニョイティットハム/Kho Qua Nhoi Thit Ham」(Nhoi=詰める、塞ぐ、Thit=肉、Ham=とろ火で煮込む)、または「カインコークアニョイティット/Canh Kho Qua Nhoi Thit」(Canh=スープ)などと呼ばれます。 ベトナムの中でも年間を通して気温が高い南部では、暑い中でも健康を保つために、体の熱を取る働きをする食材を積極的に食べる習慣があります。中国で食材を陰と陽に分けることに由来し、ベトナムでは「ノン/Nong=暑い」と「マット/Mat=涼しい」と食材を分類します。食べると体の中で肝臓の熱を取り、血液の濾過機能を高めて体を「マット/Mat」にする働きのある食材の中でも、特に効果が高いといわれているのが苦瓜です。南部の人にとって、苦瓜は暑さを乗り切る健康食材であり、苦瓜をたっぷり食べられるこの料理は、とりわけその代表格というわけです。 また面白い事に、普段のごはんのおかずとして頻繁に登場する料理でありながら、旧正月に食べる正月料理でもあります。南部では前述の様に苦瓜を「Kho Qua」と呼びますが、果実という意味の「Qua」は発音記号が異なると「過ぎる、通過する」という意味の言葉になり、「Kho Qua」→「苦しみが過ぎ去る」と解釈して、あえて正月に食べられる様になったという説があります。 しかし、これには逆説もあり、「苦しみを引き寄せてしまう」と解釈する人もいて、正月には絶対食べない人々もいるのだとか。

苦瓜の肉詰め煮/Khoå Qua Nhoài Thòt Haàm ベトナムでポピュラーな種類の苦瓜は、日本のものに比べると、色が薄くて苦みも薄め。 苦瓜特有のイボも丸みを帯びていて、イガイガしていない

伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に新作本『ベトナム×ハノイ36通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
伊藤忍のベトめし大全
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