伊藤忍のベトナムめし大全/第32回 焼きなす/Cà Tím Nướng

焼きなす/Caø Tím Nöôùng 日本のなすよりも水分が少なくて味が濃い。 これにヌックマムとねぎ油、豚肉の旨味が染み込んでとびきり美味しくなる

今回ご紹介するベトナム版の焼きなす「カーティムヌーン/Ca Tim Nuong」(Ca Tim=なす、Nuong=焼く)は、白いごはんと食べるベトナム南部のおかずです。日本でも焼きなすファンは多いですが、ベトナムも同様。家庭だけでなく、ごはんのおかずを売る惣菜屋や食堂の定番メニューとして、とても人気の料理です。 この料理には日本同様に紫色のなすを使います。日本では九州などが産地の丈が長い種類のものです。ちなみにベトナムには、漬けものに使われるプチトマト大の白なすや、煮込み料理に使われる白や薄い緑色をしたトマト大のなすなどもありますが、焼きなすには紫色の長いなすを使います。 作り方ですが、なすを焼いて皮をむくところまでは日本の焼きなすと同じです。しかし、日本ではそこにおろししょうがと醤油、調味料をそのままかけて香味野菜を添えるだけと、とてもシンプルに食べますが、ベトナムバージョンはもう少し味が複雑になってきます。 焼きなすに合わせるタレは、ベトナムであらゆる料理に合わせられる、魚醤のヌックマム(Nuoc Mam)ベースの甘くて酸っぱいタレ。ヌックマムに砂糖、レモン汁、水を合わせて、塩気、甘味、酸味を同時に味わえるようにしたもので、これに刻んだにんにくと赤唐辛子で香りや辛味を加えて作ります。 そして、忘れてはならないのがねぎ油の「モーハン/Mo Hanh」(Mo=脂。現在は植物油で作るが昔は豚の脂で作っていた、Hanh=ねぎ)。刻んだ青ねぎに、熱々の油を注いで作ります。油を注ぐとねぎが間接的に加熱されて、ねぎの香りが一面にひろがります。なすが油と相性が良いのはよく知られていますよね。特にイタリア料理や中国料理では、にんにくなどの香味野菜で香りを付けた油で調理するなす料理がたくさんありますね。なすは香りのよい油をしっかりと吸うことで、コクや風味が加わって一段と美味しくなるのです。このベトナム版の焼きなすもこれと同様で、香りのよいねぎ油をなすがしっかりと吸い、ただタレでサッパリ食べるだけではない、油の香りとコクも楽しめるのです。 皮をむいた焼きなすを器に盛り、上記のねぎ油をかけ、食べる時にタレを全体に回しかければ、ベトナム版焼きなすの出来上がり。これだけでも充分においしいですが、私のおすすめは、これのボリュームアップバージョンで、炒めた豚ひき肉をのせた「カーティムヌーンティッバム/Ca Tim Nuong Thit Bam」(Thit Bam=細かく叩いた豚肉)。豚の旨味や油気も加わって、さらに旨さがパワーアップします。

焼きなす/Caø Tím Nöôùng 日本のもの比べるとかなりサイズは大きい

伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2010年12月に新作レシピ本『はじめてのベトナム料理』(柴田書店)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
伊藤忍のベトめし大全
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