内田結貴さん/歯科医

昔の日本に似たベトナムの歯科事情 予防歯科を根付かせたい

削り、抜くことを繰り返せば、歯はいずれなくなる。虫歯になってから治療するのではなく、まずは予防から。長い時を経て日本に定着した、そんな「予防歯科」の概念をベトナムに広めたいと、ホーチミン市で奮闘する日本人歯科医がいる。 「歯は1度悪くしてしまうと、以前と同じ状態に戻ることはありません。だから健康な歯を保つために、『予防』が大切なんです」。 チャーミングな笑顔が印象的な内田結貴さんは、2007年の初来越の際、予防が一般的ではないベトナムの歯科事情を知ったことをきっかけに、開業を決意。埼玉県の実家で歯科医を営む両親とともに、「スマイルデンタルセンター」を立ち上げた。 若い世代が多いベトナムは、近年の目覚ましい経済発展の下、食の西洋化が進んでいる。そんな現状は、かつての日本に似ているという。 「実際に体験したわけではありませんが、父の話などを聞き、今のベトナムが40年ほど前の日本にそっくりだな、と思いました。人びとの食事や生活が大きく変わった高度経済成長期。多くの人が虫歯を患い、歯医者に行列が出来ていた時代です」。 ボランティアとして年に数回来越し、「予防歯科」の啓蒙活動をする選択もできたが、内田さんは、あえてベトナムに腰を据えることを選んだ。その理由は、「地道だけれど定着するから」。 穏やかな表情に、一貫した信念と熱い想いが見え隠れする。 「ボランティアでも指導はできますが、一歩ずつ身近なところから確実に広めたかった。私たちが患者さんにきちんと指導し、その人がまた別の誰かに伝える。あるいは、私たちの考え方をベトナム人スタッフが理解し、患者さんに伝え、それが少しずつ広がっていく。時間はかかりますが、予防の大切さを根付かせたいと思っています」。 そのためには、「歯の健康は、自分で管理」という歯科予防の根本的な考え方を、人びとに気づいてもらうことが必要だ。 「私たち歯科に携わる者は、患者さんのサポーターだと思っています。日々のケアで補えない部分を、私たちプロが手助けをする。3ヶ月に1度は定期健診をしてほしいですね」。 現在、患者は在住日本人が中心だが、「子どもの歯をきちんと診てくれる」と、口コミで訪れるベトナム人患者も徐々に増えつつある。歯科指導に話が及ぶと、意外な言葉が返ってきた。 「歯医者なのになんで? と思われるかもしれませんが、ベトナム人の患者さんには歯磨き方法よりも、食べ物の話をすることが多いんですよ」。 本来、歯磨きと生活習慣の改善が主な虫歯の予防法だが、ベトナムでは特に食事の摂り方へのアプローチが予防に最も有効なのだそう。 「ベトナムの人は糖分の摂取が多く、虫歯の原因となる『だらだら食い』もよく見られます。『ご飯やふかしイモなど、ほんのり甘く、子どもが好きそうでお腹にたまるものを選んでは』というように、彼らが実践できる提案を心がけています」。 予防歯科の草の根活動。まだはっきりとした手ごたえはないと話しながらも、内田さんの夢は膨らむ。 「学校へ指導に行ったり、逆に当院を見学してもらったりして啓蒙活動を進めたいですね。いずれはベトナムで予防歯科のプロを育てるお手伝いができればいいなと思っています」。
プロフィール 内田結貴 うちだゆうき 1981年埼玉県生まれ。広島大学歯学部卒業後、日本歯科大学大学病院にて研修。埼玉県の歯科医院や、同県春日部市にある実家の歯科医院「内田歯科医院」などでの勤務を経て、2010年5月に来越。同年11月、ホーチミン市に「スマイルデンタルセンター」を開院し、院長を務めている。「なるべく削らない、なるべく抜かない、虫歯にしないためのケアサービス」を提供。
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