29屋的　越南食卓／第19回

「ベンチャーではなく、ベントーです」弁当屋「ジパング」誕生秘話

ジパングが大昔、日系の工場向け社員食堂を運営していた時代。ある大口のお客様の社員の皆さんにご意見やご希望をお伺いしてみたら、「輸入牛のステーキや手長エビが食べたい」、「デザートに高級アイスか山盛りフルーツが欲しい」などなどのご回答。今から20年近く前の時代で物価も安かったとは言えど、さすがになぁ…と、微笑ましくも悩ましい思いをしたことがある。たしかにそれは極端な例だったとしても、何千人もいる工員さんたちのすべてから不満が出ないようにすることは、本当に難しい。味付けの濃さ、ごはんの炊き加減、スープの具の好き嫌い。とまあ、あちらに合わせれば、こちらから文句が出るといった具合。工夫のタネにも限度はあるし、一食あたりの利益率も低く、こりゃしんどいなと思い始めた矢先、別のお客さんからこう言われたのである。「せっかく、こんだけうまい社食作れるんだったらさ、日本食の弁当『も』やったらいいんじゃないの？」。考えてみれば、当時のボク自身、エンドユーザー（＝ベトナム人）の嗜好という、勝負どころの最終局面をコントロールできていなかった。ところが日本食であれば、全局面に最後まで関わることができる。と、いうわけで、そのとき受注していたすべての契約を新規更新せず、厨房を引っ越して日本食用に改造。こうして、ホーチミン市で日本食宅配弁当屋ジパングがスタートしたのが、1999年の初夏。今後も、ガッツで突っ走り続けますので、よろしく哀愁！