伊藤忍のベトナムめし大全/第81回 海老と豚入りでんぷん餅/Bánh Bột Lọc Tôm Thịt

VNS_VietMeshi_ED_201510_001生地から透けて見える餡の海老と豚は、あらかじめ甘辛く炒め煮にしてある

フエといえば様々なお餅の料理が有名ですが、その中でも私が好きなのは独特の食感が癖になる「バインボッロックトムティッ/Banh Bot Loc Tom Thit」(Banh=生地から作る物の総称、Bot Loc=でんぷん、Tom=海老、Thit=肉、ここでは豚肉。以下、バインボッロック)をご紹介します。 でんぷんで作った生地を丸く伸ばし、味付けして炒め煮にした海老や豚入りの餡を包んで茹でる半月型のタイプと、「ラーゾン/La Dong」と呼ばれるクズウコン系の植物の葉(バナナの葉を使う場合も)で包んで蒸して作るタイプがあり、フエでは後者の葉を使うものがポピュラーです。 フエで食べられる多くのお餅料理の原料が米なのに対して、バインボッロックは名前の通りでんぷんから作られています。当然ながら、見かけも食感もほかの米系の餅とはかなり違います。包んだ葉をはがすと、火を通した後のでんぷん餅は半透明になり、中の具材が少し透けて見えます。口に運ぶと、米系のお餅のプルプル感とは違ってしっかりとした弾力があり、ムニュッムニュッという独特な食感が新鮮で後を引くのです。 生地に使うでんぷんは、フエでは「Bot Loc/ボッロック」と呼ばれており、トウダイグサ科イモノキ属のキャッサバやそれに似た植物の塊根から取れるでんぷんを指します。でんぷんはフエの特産物の1つでもあり、バインボッロックのほかにも、ベトナムの伝統的な甘味「チェー/Che」に、このでんぷんで作った小さな団子を入れる「チェーボッロック/Che Bot Loc」、麺状にしてスープに入れて食べる「バインカイン/Banh Canh」(Canh=スープ)など、色々な食べ方があります。 通常、でんぷんは粉状で流通していますが、フエやその近辺などでは、粉状でんぷんの製造途中であるフレッシュな状態(写真下)で売られています。原料になる塊根をすりつぶして水で溶き、絞ってカスを除いた後にそのまま置いておくと、でんぷんのみが沈殿します。売られているのは、この上澄み液を捨てた塊の状態のでんぷんです。 主に間食として親しまれている、バインボッロックを含むお餅料理。どのお餅も10個から注文を受ける場合が多いのですが、私は今回紹介したバインボッロックを1人で10個食べられるほど、大好き(笑)。当然ほかのお餅を食べるのは諦めないといけませんが、それでもかまわないほどです。

Vietmeshi_201510_subフエの市場で売られている生ボッロック。これを干してから粉砕すると、でんぷん粉になる

伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2004年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。 ウェブサイト:www.vietnamfoodnet.com
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