ベトナムの日本人/氏家嘉宏さん/うどんと炭火焼えびす店長

おいしさは1人1人の口を通じて伝わってゆく 日本人を満足させるうどんで、ベトナム人を魅了したい

DSCF0474 フォー(Pho)をはじめ独自の麺文化をもつベトナム。現地風にアレンジした日本料理を出す店が多い中、「日本の味そのままの讃岐うどんを提供する」。そんな氏家嘉宏さんの挑戦は、5年前に始まった。  ベトナムの麺料理は基本的に肉からだしを取り、麺は柔らかい。うどんを初めて口にしたベトナム人の中には、「慣れない魚だしは臭く、コシのある噛みごたえは固い」という声もあった。しかし、氏家さんは、「ベトナム人の口に合わせる気はありませんでした」と言い切る。  讃岐うどんの本場、香川県から上京してうどん店を営む父の背中を見ながら、「うどんは、ほぼ主食」という環境で育った氏家さんの腹の底には、うどんのおいしさと可能性に対する揺るぎない自信があるようだ。 「大切なのは、『日本のうどんとはこういうものだ』と知ってもらうこと。食べていただいたベトナム人のお客様1人1人の口を通じて、おいしさが伝わってゆけばというスタンスです」。  とはいえ、素材も違えば、気候も異なるベトナムでのうどん作り。そもそも一緒に働くベトナム人の従業員がうどんを知らない。「何度も試作を繰り返しました」と5年前を振り返るが、それ以上に戸惑ったのは、彼らの仕事意識だった。 「日本人と比べて飲み込みは早い。器用で勘もいいので、ある程度のことはすぐできる。ただ、その『ある程度』で『自分はもうできる』と判断してしまう。追及が終わってしまうんです」。  仮に「ゆで時間は10分で」とお願いすると、きっかり10分でうどんを鍋から上げてはくれる。ただ、意識が向いているのは10分という時間。実際のうどんの仕上がりの方には向いていない。 「彼らは、納得してから行動に移すんです。言わなくても分かるという日本のやり方は、ここでは変えなければならないと痛感しました」。  ニュアンスを言葉で伝えるのは難しい。身振り手振りを交え、自分がやって見せ、根気よく「なぜ」を伝え続けた。「野菜をゆでる時に塩を加えるのは、緑色をきれいに際立たせるためだよ」。こんな小さな「なぜ」も、伝えるのと伝えないのでは取り組み方が全く違うと実感したという。 「彼らの旺盛な好奇心を尊重すると、こちらの言い分にも耳を傾けてくれる。確かに大雑把なところもあります。でも、彼らには彼らなりのやり方もあって、市場での買物の仕方や野菜の念入りな洗い方なんかは、逆にこちらが学びました」。  今では彼らに厨房を任せられるほどになった。「生地の具合に合わせて、このくらいのゆで時間でやってみました」という声を聞き、「人は徐々に変わっていくんだな」と感じることもある。 「でも、まだまだ。地道に日々のブレをなくし、毎日最高のうどんを提供していくことの継続です。日本人を満足させることも、ベトナム人に喜んでもらうことも、うまいうどんを出せるかどうか。結局はそこに尽きると思っていますから」。
氏家嘉宏 うじけよしひろ 1985年、東京都出身。割烹店やビアホールなど、日本での飲食店勤務を経て、2010年、ホーチミン市の日本料理店「うどんと炭火焼えびす」のオープンにともない、オーナーである父の誘いで来越。以来、同店の店長として店を切り盛りし、後進の指導にあたる。
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