ヴィジュアル☆ベトナム/マルゥ:素晴らしいストリップショーと /テロワールの深い喜び/MAROU: THE GREAT STRIPTEASE AND/THE DEEPER PLEASURE OF TERROIR

veritcal02 visual魅惑的な出会いだった。レジ近くの控えめで小振りな竹の棚に並ぶ5つの板チョコは、全て色は異なるが、どれも装飾的かつ控えめで洗練されたデザイン。 手に取ってドンナイ、ラムドン、など1つ1つに記された地名に気づく。格子柄を背景に、アジア的な丸い雲がカカオの鞘と花をふわふわ通り過ぎる。同時に、どこかアールデコ調の字体が1920年代インドシナのジャングル冒険小説のような旧世界の印象を与えつつ、現代的。この魅力的な板チョコは持った感触も良い。薄型で、マット感があるちょっと素朴な包装紙。 で、連れて帰ろうと思う訳だ。さて、ほとんどのチョコの場合、開封という行為に気を留めることはない。だが、これは「マルゥ」。包装紙があまりに素敵なので、びりびりと破るより、後ろから注意深く脱がせていく。紙がはらりと落ちて現れるのは、上品なシールで封をされた金色の薄紙。そっと開くと、何と板チョコの表側がそこで待っている。ロゴを囲むようにスパッと斜めにカットされた模様で。 視覚的な興奮は、ここまで1度も冷めていない。さあ、ようやく口にできる! 驚いたことに、斜めカットのおかげでチョコは様々な形と大きさに割れる。大きい粒や小さなかけら…。ひどく不公平だが、視覚と感覚の喜びをさらに広げてくれる。 マルゥは自分たちのチョコを「棚から口までの体験」と表現するが、それ以上だろう。湿らせた指先でダークチョコの欠片をつまんで楽しみながら、その風味の繊細さを吟味し、パッケージとの関連を考える。「紫色のティエンジャンがこの味なら、ライムグリーンのベンチェはどうだろう」。色、味、カカオ豆、場所が1つの経験に集約されており、作物に土地特有の個性を与える「テロワール」そのものだ。例えば、バーリアの土壌は鉄分とボーキサイトにより赤く、カカオの鞘は赤身をおびたオレンジ色。だからこそ包装紙の色はフルーティーな味を示唆する。 マルゥは先月号の「ライスクリエイティヴ」と共に、数ヶ月間をかけて事業のブランディングを作り上げた。1つの産地のカカオから1つのチョコを作る「シングルオリジン」だからこそ、「場所」をコミュニケーションの基本概念とした。ライスとマルゥがすごいのは商品、パッケージ、テロワールが重なり合い、物語へと変わるところだ。色はカカオ豆の象徴となり、味覚の地図であり、会話のきっかけであり、官能的な記憶となる。 世界のどこへいっても、私はスーツケースからこれらのベトナムの破片を取り出して、マルゥのストリップショーへ友人たちを誘惑する。より深い味覚の体感に、ただ「あー美味しい」で終わらず、実際に自分たちが口にしているものについて話し出す。表現し比較するために、色と味を覚えているかを尋ねる。この遊びに身を委ねる姿を見て、私は話を始める。メコンデルタの下流域や、霧深い高原のコーヒー農場、かつて象とユニコーンがいたという山などについて…。 marou001
Sue Hajdu スー・ハイドゥー オーストラリア人文筆家、和英翻訳者、写真家。シドニー大学日本学の学士号、同大学院視覚芸術の修士号をもつ。 ベトナムと日本でアーティストとして15年ほど活動。 www.suehajdu.com MAROU www.marou.jp ※2015年1月20日(火)〜2月14日(土)、日本各地で開催される「サロン・デュ・ショコラ」に出店予定。 www.salon-du-chocolat.jp
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