ヴィジュアル☆ベトナム/ビルの解剖:213 ドンコイ/AUTOPSY OF A BUILDING: 213 DONG KHOI

213SERIES#314&368forSue『最後の一目』 より ©Ngo Dinh Truc
visualドンコイ213アパートはもうほとんど存在していない。脇に押しのけられ、瓦礫に囲まれた角の塊が残るのみだ。   1929 〜1930年に建てられたこのアパートは、サイゴンのアールデコ建築で最も優れた見本だろう。ドンコイ通りとレタントン通りの角で、サイゴンの波瀾万丈な歴史の証人かつ背景としてその生涯の大半を過ごしてきた。交差点で信号待ちをする間にこの建物を見上げ、その角度と魅惑的な緑色の鎧戸を誉め称え、毎日下の通りを眺める暮らしを想像したことは、おそらく誰にでもあるだろう。   解体開始から3日後、写真家ゴー・ディン・チュック(Ngo Dinh Truc)はアパート内を撮影した。展示中の写真から、天井は高く、戸口はすらりと細長く、曲線美の鉄製バルコニーのすぐ外に緑豊かな木々がある様子が見てとれる。「すべてが空き部屋で中に入れたからこそ、素晴らしいフォルムを把握できたし、ディテールも際立っていた。光と換気構造も最高だった」とチュックは話す。「木製の階段はチーク材で、幅1.5m、厚さ4cm、奥行き35cm。そんなチークはもう手に入らないよ」。   チュックに同行した建築家チャン・ビン(Tran Binh)は、建物が丁寧な煉瓦造りで、内外の状態は良好だったと言う。通常、解体前の建物には入れないため、この「最後の一目」の機会はとても珍しい。チュックのどこか背徳的で激しいスナップ写真は、念入りな検視のようだ。だが状態が良いのなら、なぜこのアパートは死ななくてはならなかったのか。死因は何だったのだろうか。   もちろん、復旧されればありがたかった。住民が生活したままでの調整は困難だっただろう。ただ、アパートは人民委員会によって買い上げられたという事実がある。だったら建物を修復し、ブティックホテルやレトロ調オフィスとしての復活させることはできたはず。地下には駐車場もあった。歴史的建築として総括的に利用できる逸品だったのだ。   だったらなぜ?   チュックの解剖により自然死でないことが明らかになった今、その原因は植民地独立後のイデオロギーや拝金主義、先見の明のなさだと憶測するしかない。建築的特徴にかかわらず、「フランス式」である以上、その建築は評価されないこともある。破壊と再建に比べて、保存と愛着から得るものは明らかに少ない。このような建物を守り、サイゴンが将来的に歴史的多様性と豊かな深みをもつ街になることは、優先順位として低いのだ。   次に現れるのがどんな建物であれ、エデンの場合と同様、以前ほどではないはずだ。美と多様性とこの街を愛する者たちによって、ドンコイ213アパートは心から惜しまれるだろう。
2ドンコイ213アパート ©Sue Hajdu
Sue Hajdu スー・ハイドゥー オーストラリア人アーティスト、写真家、文筆家としてベトナムと日本で活動。シドニー大学日本学の学士号、同大学院視覚芸術の修士号をもつ。 ウエブサイト:www.suehajdu.com Facebook:Sue.Hajdu.Projects 「最後の一目」展 (Nhin Lan Cuoi / The Last Look) Cuc Gach Party (9 Dang Tat St., Dist. 1, HCMC) で開催中(終了時期は未定)。 ウエブサイト:www.ngodinhtruc.com
関連記事
Related Articles
こどもの学び舎/(126)毎日の授業は楽しいよ! 子どもたちに役立つ知識とマナー
2022.12.18

こどもの学び舎/(126)毎日の授業は楽しいよ! 子どもたちに役立つ知識とマナー

こどもの学び舎/(125)多くの人が力を合わせて実現 子どもたちが待ち望んだ中秋節!
2022.11.18

こどもの学び舎/(125)多くの人が力を合わせて実現 子どもたちが待ち望んだ中秋節!

こどもの学び舎/(124)歯科検診で健康な歯に! 明るい笑顔で迎える新学期
2022.10.18

こどもの学び舎/(124)歯科検診で健康な歯に! 明るい笑顔で迎える新学期

こどもの学び舎/(123)夏休みは楽しみつつ、 新年度に向けた補習授業
2022.09.18

こどもの学び舎/(123)夏休みは楽しみつつ、 新年度に向けた補習授業

こどもの学び舎/(122)2021~2022年度の終業式 がんばりを称えて夏休みへ!
2022.08.18

こどもの学び舎/(122)2021~2022年度の終業式 がんばりを称えて夏休みへ!