ヴィジュアル☆ベトナム/グエン・チュンとベトナム抽象画の数奇な歴史/THE CAREER OF NGUYEN TRUNG AND/THE CHECKERED HISTORY OF ABSTRACTION IN VIETNAM

Blackboard II『ブラックボードⅡ/Blackboard II』、2004年、グエン・チュン(Nguyen Trung) 120cm x 100cm、アクリル、オイルスティック、石膏、キャンバス ヴィジュアル☆ベトナム巨匠グエン・チュンは、ベトナム抽象画の父だと評される。本人は遠慮がちに否定するものの、ベトナム美術史における彼の経歴は、同国の抽象画史について示唆に富んでいる。   チュンは1958年、現在のホーチミン市現代美術大学で学び始めた。23歳で初の個展をサイゴンで開き、具象的な作品を発表。フランスからの輸入美術雑誌で抽象画を見てきた彼は、1962年の第1回国際美術展の開催中、ハンス・アルトゥング(Hans Hartung)をはじめ、著名画家たちの作品を初めて目にすることができた。大半のサイゴンの芸術家たちと同様、チュンはこれらの作品は異国的で面白いが、決して真似できないと悟る。抽象画に惚れ込み努力を重ねたものの、彼自身が言うところの「生煮えの米」のような作品しか生み出せなかった。 「僕には十分な技術がなかったし、政治的な混乱から、サイゴンで外国人画家の作品を再び鑑賞することは、かなわなかった。さらに当時の保守的な社会では、芸術家が目新しい何かに没頭することは不可能だった」。   ベトナム(南部)における抽象画の数奇な歴史は、フランスが去った後の政治的な浮き沈みと密接に絡み合う。1975年に状況は一新し、南部の芸術は軽薄で退廃的だとされた。革命と国の再建に必要な、社会主義リアリズムの楽観的な将来像だった。需要のない中で芸術家たちはどうやって糧を得て、新しい政治的な流れの中で心情的、知的、創造的にどう適応したのだろうか。   グエン・チュンは農民になろうとしたが、妻や友人たちから即座に反対された。考え直した彼は1976年、南北統一後初の国内展覧会に出品。「生煮えの米」の代わりに、農民や労働者を写実的に描いたのだった。   10年後、ドイモイ(Doi Moi)政策により国は次第に開けたが、抽象画ははっきり公認されない。この漠然とした状況は1990年代まで続き、その頃には一部の芸術家たちが勇気を出して抽象画に手を出し始めていた。   1990年にパリで活動の機会を得て、チュンの創作活動は転機を迎えた。6ヶ月間、彼は「自由な創造」の街で最高の芸術や文化に没頭。ついに心から抽象画に打ち込めるようになったのだ。   これがベトナム初の「抽象画家」を生む結果になったかは、議論の余地がある。その頃チュンは中堅の画家であり、彼の作品は時代の変遷とともに大きく変わった。彼は抽象主義だと定義されることを拒み、最高傑作を選び出すことも難しいという。「その審判は僕の死後まで待たないと!」。代わりに、彼の過去50年にわたる制作活動を、絶え間のない進化だとしている。彼の現在の作品は、あえていうならミニマリストだ。   チュンの経歴は、ベトナムのような国の美術史を考える時、既存の「なんとか派」のような学術カテゴリーとは切り離し、制作状況に鑑みて芸術家の全作品をとらえ、状況にどう適応してきたのかを考えるべきなのだ。 SAMSUNG
Sue Hajdu スー・ハイドゥー オーストラリア人アーティスト、写真家、文筆家としてベトナムと日本で活動。シドニー大学日本学の学士号、同大学院視覚芸術の修士号をもつ。 Website:http://www.suehajdu.com facebook:Sue.Hajdu.Projects
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