伊藤忍のベトナムめし大全/第58回 発酵魚の米麺/Bún Mắm

BunMam_0008南部のブンマム。味も旨味も濃厚なスープに、しっかりとした麺の食感、さっぱりした生野菜のシャキシャキの食感がマッチしていて、癖になる美味しさ 発酵食品好きの私はベトナム南部の「ブンマム/Bun Mam(Bun=米麺、Mam=発酵させた魚介)という汁麺が大好きです。この料理に使われるのは、メコンデルタの町チャウドック(Chau Doc)名物のカーサック(Ca Sac)やカーリン(Ca Linh)と呼ばれる魚の小さいものを塩漬けして発酵させ、さらに炒り米粉などに漬け込んで作ったマムカーサック(Mam Ca Sac)やマムカーリン(Mam Ca Linh)です。   豚のダシにマムを溶かし、炒めたレモングラスや豚バラ肉と煮てスープを作ります。マムの強烈な塩分がスープの味付けとなりますが、とにかく塩気が強いので砂糖をたっぷり加えて味を調えます。味の濃いこのスープには太いブンを合わせ、なす、海老やイカなど色々な具を入れますが、欠かせないのが表面がカリッと香ばしく焼けた豚の丸焼き・ティットクアイ(Thit Quay)の切り身。さらには裂いた空芯菜、刻んだバナナの花のつぼみ、スイレンの茎、ニラ、もやしなどたっぷりの生野菜を加えながら食べるのです。   さて、話は変わるのですが、先日友人2人を連れてホイアンを訪れ、数々のホイアン名物料理を食べ歩きました。   ある日の朝食は、お目当ての店の料理が売り切れで、あきらめてその店の近くの道端にある米麺ブンの料理を出す屋台で食べることに。そこはちょうど3種のブンを売っていて、焼肉のせあえ麺の「ブンティットヌン」、魚のすり身揚げのせ汁の「ブンチャーカー」、そして「ブンマム」がありました。   ブンマムはこの辺の人も食べるのねと南部と同じものをイメージし、それをホイアンで食べることもないけれど、ちょうど3人だからとそれらを注文。   しかし出てきたブンマムを見てビックリ、汁のない麺でした。汁がなくてどこにマムが入っているの? と思って箸で混ぜてみるとタレからイワシのマムの匂いが。なるほど、間違いなくこれはブンマム。ブンとマムが入ってはいるけれど、南部のものとは料理のスタイルも使っているマムも全く違うので、別の味わい。目から鱗の思いでそれを食べたのでした。   後から中部の友人に聞いてみると、ホイアンを含む中部ではブンマムと言えばこれなのだとか。「えっ? 南部は違うの?」と友人も南部のブンマムを知らなかった様子。   地方に行くと名物料理ばかりに気を取られてしまいますが、それ以外にもこういった面白い発見があったりするのですね。ああ…ますます私のベトめし探求の旅には終わりがなさそうです。 E中部のブンマムは、細いブンの上にゆでたしじみの身や豚の丸焼きの切り身などをのせる
伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2000年より約4年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に『ベトナム×ハノイ36通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。 Website:http://www.vietnamfoodnet.com
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