伊藤忍のベトナムめし大全/第52回 豚の炭火焼きのせ麺/Bún Thịt Nướng

Saigon-Bun-Thit-Nuong

伊藤忍のベトナムめし大全

ベトナムでも日本と同様に、同じ名前の料理だけれど地域によって味付けやスタイルが違うという料理があります。 下味をつけて串に刺したり、挟んだりして炭火で焼いた豚肉を、なますや香草、野菜といっしょに米麺の「ブン/Bun」にのせ、タレをかけて混ぜて食べる「ブンティットヌン/ Bun Thit Nuong」(Bun =米麺、Thit =肉 ※ここでは豚肉、Nuong =焼く)もそんな料理の1つです。 以前、私が住んでいた南部のホーチミン市などでは、「ブンティットヌン」と言えば、魚醤のヌックマムと砂糖、レモン汁を合わせた甘酸っぱいタレをかけて食べるスタイル。ヌックマムの甘酸っぱいタレは、この料理に限らずベトナム全土で親しまれている万能のタレで、あらゆる料理に合わせるものです。 このタレ、地方によって甘いとか、薄いとか味の違いがあるので、他の地域のこの料理はこのタレの味が少し違うぐらいだろうと思って、わざわざ別の地域でブンティットヌンを食べてみることはありませんでした。 ある時、中部のフエ(Hue)地方を旅行した時のこと。昼食を食べそびれ、とにかく開いている店へということで、この料理を食べる機会に遭遇しました。料理が出てきてビックリ。ヌックマムのタレとは全く違うものが添えられていました。 それは「ヌックレオ/Nuoc Leo」と呼ばれていて、フエの大豆味噌、豚ひき肉、豚のレバー、白ごまやすりつぶしたピーナッツなどから作るフエ独特のタレ(ヌックレオは別の地方では「ダシ」の意味になる)。この料理の他にも、フエのお好み焼きの「バインコアイ/ Banh Khoai」、豚すり身串焼き「ネムルイ/Nem Lui」などにつけて食べるのです。フエに限らず、ダナンやホイアンなど中部地方は、このブンティットヌンは同じ様に味噌ベースのタレで食べます。そのタレはフエと同様に、別の料理にも添えられるものです。 当然、タレが違うと味わいは全く違います。南部のヌックマムベースのタレをかけたものは、サッパリとしているので、肉、香草、ブンの味をそれぞれ立ててくれます。中部地方の味噌ベースのタレは、コクがあるので、肉、香草、ブンをこのタレで包み込んで、合わさった相乗効果を楽しむ感じです。 私がまだ知らないだけで、地方によってスタイルは違うが同じ料理というのがもっとあるのかも知れません。知らない料理を食べ歩くだけでなく、知っている料理も各地方で食べてみないとわからないものですね。ベトナム料理を追い求める旅…本当に全く終わりが見えません。 Hoian-Bun-Thit-Nuong 中でも私が好きなのは、しっかりとしたコクのホイアン風。味噌ダレは、名古屋の赤味噌を連想させる
伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約4年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に新作『ベトナム×ハノイ36 通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
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