伊藤忍のベトナムめし大全／第47回 ココナッツアイス／Kem Trái Dừa

私が初めてホーチミン市を訪れた15年前、あるベトナムのガイドブックにこのココナッツアイスの「ケムチャイユア／Kem Trai Dua」（Kem＝アイスクリーム、Trai Dua=ココナッツの南部で呼び方）が紹介されていて、掲載されていたお店に食べに行ったのを覚えています。 そこはホーチミン市でもとても有名な「バックダン／Bach Dang」という店で、20年以上にわたりカップル、家族連れ、旅行客などで賑わっています。この店の人気で有名になったのが、このココナッツアイスです。 ココナッツアイスといってもココナッツ味のアイスクリームのことではなく、ココナッツの実の中にアイスクリームを盛り付けたもの。ヤングココナッツの実の上部を切り落とし、ジュースを出して器にした実にスクープしたアイスクリームをたっぷりと入れ、フルーツやクリームでデコレーションするのです。 ボリュームもあってかなり楽しめる上、食べ終わるともうひとつの楽しみが待っています。ココナッツの実の内側の果肉をスプーンで削って食べるのです。 ちなみに同じく有名アイスクリームカフェ「ボーヤー／Bo Gia」も、「バックダン」ができる10年程前からすでに店をかまえていました。この店にも同じココナッツアイスがあるので、どちらが最初に始めたのかはわかりませんが、いずれにしてもこのココナッツアイスが以前から地元の人々に人気があったということは確実といえます。 アイスクリームには、その他グラスやコーンにただ盛っただけのものもあります。ですが欧米のスタイルそのままよりも、自分達の好みに上手くアレンジしたものがベトナムの人々の心をとらえるようで、実はこのココナッツアイスの他にも、ベトナムらしいアイスクリームの食べ方があります。 街中で自転車や屋台で売り歩くアイスクリーム屋では、小さなコッぺパンの真ん中を切り開き、そこにアイスクリームをスクープしてのせ、さらにコンデンスミルクをかけて香ばしいクラッシュピーナッツを振って食べさせてくれます。 またハノイにはもっと驚きの食べ方、おこわの上にアイスクリームをのせた「ケムソイ／Kem Xoi」なるものもあります。初めは「えっ？」と思いますが、食べ慣れるとこれがまたよく合うのです。 アイスクリームに限らず、ベトナム人が外国から入ってきた食べ物を自分好みにアレンジする能力は、「さすがだな～」といつも感心させられます。 すりつぶしたパンダンリーフで色と香りを付けたもち米を蒸して冷まし、アイスクリームをのせて食べる。トッピングはローストココナッツ

伊藤忍（ベトナム料理研究家） 2000年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に新作『ベトナム×ハノイ36通りグルメ』（情報センター出版局）を出版。詳しくはホームページ（www.vietnamfoodnet.com）を。