伊藤忍のベトナムめし大全/第46回 トマトの肉詰め/Cà Chua Nhồi Thịt

vietmeshi_2012_11 伊藤忍のベトナムめし大全今回ご紹介するトマトの肉詰め「カーチュアニョイティッ/ Ca Chua Nhoi Thit」(Ca Chua =トマト、Nhoi =詰める、Thit =肉)は、とてもベトナムらしい料理です。 実はこの料理のベースはフランス料理の詰め物「ファルシー/ Farcie」。トマトの肉詰めである「トマトファルシー」は日本でも食べられるので、何が「ベトナムらしさ」なのか疑問に思うかもしれません。しかし日本でのこの料理と、ベトナムでのものは、全く異なるのです。 フランスのベトナム統治時代、様々な料理がフランスから伝わりました。詰め物のファルシーもそんな料理の1つ。中でもトマトの肉詰めは、とても人気となりました。そのため、ベトナム語では「カーチュアニョイティッ」と呼びますが、時々「カーチュアファルシー/ Ca Chua Farcie」と、フランス語混じりのベトナム語で呼ぶこともあります。 作り方や材料は様々ですが、定番は半分に切ったり、上の方だけを切ったりしたトマトから種をくり抜き、豚ひき肉や海老、魚のすり身、香味野菜、調味料を混ぜた生地を詰め、油で揚げ焼きします。これに調味料をかけたり、トマトと調味料を合わせたソースをからめて食べるのですが、この様な料理の何がベトナムらしいのでしょうか? 日本でトマトファルシーを食べる場合は、西洋料理という前提でのことでしょう。そのため、日本の伝統的なご飯のおかずといっしょに食べるには少々ミスマッチ感を感じてしまいます。味噌汁? 焼き魚? 漬けものと、トマトファルシー? しかしベトナム版では、日本(フランス)で生地に玉ねぎを入れるところを、代わりにベトナム料理に欠かせない小さい紫玉ねぎや青ねぎを使ったり、生地の味付けやソースにベトナムの魚醤のヌックマムや大豆醤油を使ったりするのです。また、詰める生地の肉やすり身などの中に、刻んだ春雨やきくらげなどを混ぜたりもするのです。 この様なアレンジがあるため、ベトナム人の主食である白いごはんやその他のおかずとも、とても良くマッチするのです。定食屋などでは普通にこの料理が並びます。つまり、彼らにとってすでに外国の料理ではなくなっているのです。 そのため、このトマトの肉詰めは、そのアレンジ力、ベトナム人の大好きな白いごはんに合わせられる様になっているあたりを見てみると、とてもベトナムらしい、いや、もしかしたらベトナム人らしい料理に感じてしまうのです。
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ベトナムの詰め物料理はトマトの他、イカ、ゴーヤ、揚げ豆腐(厚揚げ)、丸鶏など、種類や調理法も色々。イカの肉詰めのトマトソース煮も、定食屋の庶民派おかずの定番
伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000 年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011 年7 月に新作『ベトナム×ハノイ36 通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
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