ベトナムの日本人
フロイデ合唱団指導者
坊向 敏和さん、良子さん
音楽を通じて知る世界は山ほどある。
ベトナムは1歩踏み出すことの大切さを教えてくれた
「ベトナム人は、見ていて気持ちが良いほど伸び伸びと音を奏でる。その姿は、楽しんでこそ音楽だ、ということを改めて気付かせてくれますね」。
顔を見合わせてにっこりと頷き合う坊向敏和さん・良子さん夫妻は、ハノイ在住の日本人から成る「フロイデ合唱団」の合唱指導を務める。
クラシックの基礎。それは「譜面に忠実に、作曲者の意図を汲み取って緻密に築き上げる」こと。ところがベトナムでは様子が違う。
「譜面の強弱がどうであろうと、全部フォルテ! 大きな声を出して、誰よりも前へ前へ出ようとする。良くも悪くも彼ららしい。個性が重要となるオペラに、実はすごく向いているのかも」
と声を弾ませる良子さん。敏和さんは、
「軍歌のようなハツラツとした歌を歌わせると、天下一品!」
と、2拍子のリズムを刻んでみせる。形式にとらわれず、自由に音を楽しむベトナム人に対し、
「同じ音楽を愛する者として、一種の羨ましさもありますね」。
2010年にハノイ遷都1000年を記念した日越合同合唱コンサートの合唱指導を担当。メンバーのほとんどが初心者の中、懸命に指導にあたり、オペラハウスでの初舞台に臨んだ。合唱を続けていきたいというメンバーの希望により翌年、「フロイデ合唱団」が誕生した。
楽しむことが何より大切だとしつつも、これまでストイックに音楽と向き合ってきた2人。指導にあたっては、
「適当なことはしたくない。音作りには本気で取り組んでいます」
と、穏やかな表情が一気に引き締まる。
精力的に演奏会をこなす一方、かねての夢だった孤児院や介護施設への訪問合唱を開始した。
「施設での合唱は観客との距離が近い分、表情や感情がダイレクトに伝わっていきます。1人1人と心を通わせたいという思いが、自ずと歌に溢れ出てきました」。
実は訪問するまで、施設の子どもたちに対して不安と先入観があった。
「実際に会ってみると、どの子も素直で無邪気。純粋なキラキラとした瞳に引き込まれました。現地の学生ボランティアたちの勇姿も印象深く、今どきの若者の意外な一面を知りました。お年寄りの手を握り、楽しそうに寄り添って歌う姿を、とても頼もしく感じましたね」。
今後は訪問合唱の機会を増やし、いつの日か施設の子どもたちやお年寄りと一緒に舞台に立ちたいと目標を掲げる。
「知ろうと思えば、たくさんのことを知れる世界。きっとまだまだ新たな発見や出会いがあると思います。それならば、音楽を通じて自分たちにできることは、全部やってみたい」。
1歩踏み出すことの大切さをベトナムで学んだという2人は、目を輝かせて語ってくれた。
坊向 敏和 ぼうむき としかず
1980年、大阪府生まれ。同志社大学在学中、男声合唱団「同志社グリークラブ」に所属。2006年に来越後、日本人合唱サークル「フロイデ合唱団」(2012年9月号p.65)の指導にあたる。坊向 良子 ぼうむき りょうこ
1981年、大阪府生まれ。大阪音楽大学声楽学科卒業。ベトナム国立オペラバレエ(VNOB)所属の唯一の日本人メンバーとしても活躍。
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