No. 005 今と昔のコントラスト／Fred Wissink

事の始めは、クライアントからホーチミン市のモノクロ写真を依頼されたことだった。どこから手を付けたらいいのか、自分が何を求めているのかも分からなかった。 僕はいつも細部の写真にこだわる方だが、今回はもっと広い視点で景色を捉えたかった。加えて、この街をよりムーディに見せようと思った。漠然として、急速に近づいてくる未来に戸惑っているような。 出来上がった写真には、サイゴンの今と昔のコントラストが現れていた。消滅直前のエデンモールの、その小さなフランス建築の背後にのっそりと現れるヴィンコムセンターの写真は、迫り来る変化と、それがいつもより良いものとは限らないことを示している。 ビテクスコビルを背景に、昔ながらの小さなビルが霧の中に建つ様は、この世のものとは思えないようなクオリティーをもって、SF小説を読み終えた後のような感情を呼び覚ます。

この街は変わりつつあるが、果たして人びとは、その変化を受け入れる用意が出来ているのだろうか。 街の個性が再加工されている。失われてさえ、いる。

写真・文／フレッド・ウィシンク 海外在住11年のカナダ人フリーカメラマン。ホーチミン市の英語フリーペーパー『Asia Life』のフォトエディターを務めるほか、雑誌『L.A Times』、『Time』、『Billboard Magazine』、『GQ』(イタリア)などにも写真を掲載。商業写真、ファッション、料理、インテリアなど幅広い分野で活動。 www.6andahalffloors.com

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