伊藤忍のベトナムめし大全/第37回 ベトナムカレー/Cà Ri

ベトナムカレー / Cà Ri いわゆる「ベトナムカレー」は、マイルドなカレースープの様な感じ。 パンを浸したり、米麺ブンにかけて食べる

伊藤忍のベトめし大全「カレー=辛くてスパイシー」と思ってベトナムカレーを食べると、想定外の味がします。辛味は控えめで甘さが目立ち、スパイスの風味も少し独特です。しかし、食べているうちにこの味が癖になってしまう人も少なくありません。 ベトナムでこのカレーが食べられるのは南部地方。ベトナムという国が現在の国土をもつ以前、南部地方には今のカンボジアの主要民族・クメール人が住んでいました。1~7世紀頃、メコン川下流からベトナム南部までの地域で栄えた国家「扶南国」の時代に様々なインドの文化が伝わり、この地域に多く住むクメール人に、カレーなど香辛料を使う料理がもたらされたのです。 その後、長い時間をかけて現在の南部地方は、中国の食文化の影響を強く受けたベトナムの領土となったのですが、それ以前のクメール文化の流れから、インド文化の影響を受けたカレーが存在するわけです。このようにインドの文化が伝わったアジアの国は他にもたくさんありますが、各々の国の風土、嗜好、採れる食材などから、独自のカレーのスタイルが出来上がりました。 ベトナムのカレーは、ココナッツミルクがベースとなっています。カレー粉に使う香辛料に、インドカレーでお馴染みのクミンは入れません。ターメリック、コリアンダー、チリペッパー、クローヴや八角、シナモンなどが入った独特の風味で、レモングラスの爽やかな香りのほか、ココナッツジュースや砂糖を加えて、甘さもしっかり付けます。 その中でもポピュラーなのが、鶏肉を加えた「カリ―ガ―/Ca Ri Ga」(Ca Ri=カレー、Ga=鶏)です。鶏カレーには、揚げたさつまいもや、じゃがいもなどを合わせることが多いです。甘味が強いので、同じく甘味のあるさつま芋と良く合います。そして、このカレー、フランスパンや米麺のブン(Bun)といっしょに食べ、ご飯と合わせないのが基本です。 そのためベトナムではカレーをご飯と一緒に食べないのだと思っていたら、例外がありました。メコンデルタの町、ソックチャン(Soc Trang)では、カレーライスを出す店がたくさんあり、この地域の人の日常食となっています。こちらのルーツは、フランス統治時代にビジネスでベトナムにやってきたインド商人が、ソックチャンでベトナム人と結婚して広めたのがこのカレーだといい、町にはその時代から100年も続くカレー屋があります。 ベトナム料理は中国とフランス以外にも、地域によってたくさんの国の影響を受けていて、とても複雑だな、としみじみ感じます。

ベトナムカレー/Cà Ri ソックチャンのカレーは白いごはんと食べる。 見かけも味もインドのカレーに近い

伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に新作『ベトナム×ハノイ36通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
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