伊藤忍のベトナムめし大全/第29回 ゆで巻貝/Ốc Nóng

[caption id="attachment_191" align="alignright" width="242" caption="「こんなに?」と思う量のオックでも、気が付くとペロリと平らげてしまう"]ゆで巻貝 OÁc Noùng[/caption] 「貝」と聞くと、私たち日本人には「おつまみ」のイメージが強いのですが、ベトナム人はおやつ感覚で貝、とりわけ巻貝の「オック/Oc」(ここでは淡水のもの)をよく食べます。種類や大きさはいろいろあり、調理法や味付けも地域によって実に様々。南部では甘味を加えたココナッツミルクと唐辛子で甘辛く炒め煮に、辛い味付けが好みの中部では大量の唐辛子でスパイシーに炒め煮にしたものなどが人気があります。 一方、北部のハノイでは、「オックノン/Oc Nong」(Oc=巻貝、Nong=温かい)と呼ばれる、ゆでただけの巻貝が人気。店も特に店舗を構えるわけではなく、道端に「Oc Nong」と書いた看板を掲げ、大きな鍋とザルに大量のオックを積んだだけの本当にシンプルなものです。そしてその周りを囲むように低いプラスティックの椅子に座った客たちが、夢中で巻貝をほじくって食べています。 素材の味を重視し、シンプルな味付けを好むハノイ人だけあって、調理法は実に簡単で、貝をゆでるだけ。ただし貝の臭みを除くためにレモングラスやレモンの葉、生姜などをいっしょに入れてゆでるあたりは、香りを大切にする北部料理らしい小技が効いていますよね。 金属板を三角にカットしたチップの先で巻貝の中味を引き出し、つけダレの「ヌックチャム/Nuoc Cham」(Nuoc=水・液体、Cham=つける)につけて食べるのですが、このタレが絶妙の風味なのです。北部風のヌックチャムは甘さ控えめのあっさり味。酢と微量の砂糖、魚醤のヌックマム(Nuoc Mam)を貝のゆで汁で割って作るので、爽やかながら濃い旨味が詰まっています。食べる時は、これにさらにレモンや季節によってはキンカンの様な小さなみかんの「クアッ/Quat」(北部名、南部名ではタック/Tac)のしぼり汁、細かく刻んだレモングラス、赤唐辛子、生姜、千切りにしたレモンの葉をたっぷり加え、さらに香りをプラスします。口に入れる度に爽やかな香りに包まれて、オックをほじくる手が止まらない、気が付くとペロリとどんぶり1杯のオックを完食してしまします。 [caption id="attachment_180" align="alignright" width="242" caption="熱々のオックのゆで汁にヌックチャムを加えると、香味野菜の香りがさらに広がる"]ゆで巻貝 OÁc Noùng[/caption] また、食べ終わったら、もう1つのお楽しみを忘れずに。オックのゆで汁「ヌックオック/Nuoc Oc」(Nuoc=水、液体、Oc=巻貝)を飲まない事には、オックの旨みの半分しか味わった事になりません。お茶碗に入ったゆで汁に残ったヌックチャムを加えて好みの味に調整し、オックの旨味が詰まったゆで汁をじっくりと味わえば、もう大満足。 シンプルながらも香りを大切にする、北部料理の特徴がたっぷりと詰まったこのおやつ。オックをほじくる手間はありますが、この香りと旨味のためならば、私は手間は惜しみません。時間をかけた分、味わいも深くなりますから。
伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2010年12月に新作レシピ本『はじめてのベトナム料理』(柴田書店)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
伊藤忍のベトめし大全
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